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処刑台から始まる、狂人令嬢の記録  作者: 脇汗ベリッシマ
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残石に灯を

商館の扉が勢いよく開いた。

重い蝶番が悲鳴を上げ、室内に埃が舞う。


「久しぶりー!」


その声にオズとマルタが同時に振り向いた。

立っていたのは――二ヶ月ぶりに姿を現したイリスだった。

町娘の簡素な装いをしているが、その眼差しには嵐のような鋭さが宿っている。


「……お前なぁ!」

オズは机を叩いて立ち上がり、怒声を放った。

「今まで顔も出さずに、好き勝手やってくれたな!」


マルタも胸を押さえ、震える声で続ける。

「何度も鉱山の近くまで行きましたのに……お嬢様の姿が見えなくて……」


だがイリスはどこ吹く風。

靴音を響かせて中へ入り、ドスンと椅子に腰を下ろした。

「色々、忙しかったのよ」


「忙しかった、だと?」

オズのこめかみに青筋が浮かぶ。

「今までどこで寝泊まりしてたんだよ!」


イリスはにやりと笑った。

「鉱山の人たちと同じ宿舎。雑魚寝よ。意外と気づかれなくて楽しかったわ」


「……は?」

オズは絶句する。

「正体がバレたらどうなるか、わかってんのか!?」


イリスは肩をすくめ、組んだ脚を揺らす。

「それより話は聞いてると思うけど――残土と残石の置き場、買ったの」


「……知ってるよ!」

オズは髪をかきむしり、声を荒げた。

「“物好きな小娘がいる”って噂だ! まさか本気だったとはな!」


「ええ、本気よ」

イリスの瞳は燃えるように光る。

「鉱山から人を引き抜いて、私のところで働いてもらってる」


「はぁーーーーーっ!?」

オズの怒声が商館を揺らした。

「そんな真似、貴族どもに知られたらどうなるか分かってんのか!?」


イリスは怯まない。

むしろ、挑発的な笑みを浮かべた。


「だって、腹が立つじゃない。

命を削って働く者に銅貨一枚しか払わない。

安く使えばいい人材は流れていく――当たり前のことよ。いい加減、学ぶべきだわ」


オズは言葉を失い、拳を握りしめる。

イリスはゆっくりと立ち上がり、窓の外の町を見渡した。


「国が知っていて黙っているのか、知らぬふりをしているのか……」

低く、鋭い声が室内を貫く。

「どちらにせよ――お手並み拝見ね」


それは宣戦布告のような響きだった。

オズとマルタは呆然とするしかなかった。



「……そんなことより」

イリスはふいに机にドンと何かを置いた。


オズとマルタが目を瞬かせる。

「なんだ、これ……?」


「ランプよ」

イリスは口元に笑みを浮かべ、指で器具を弾いた。


ぱぁっと灯りが広がる。

蝋燭のように揺れず、火のように熱を帯びず。

柔らかいのに、しっかりと部屋を照らす光。


「……お、おおお……!」

マルタが小さく悲鳴をあげる。


「残石から見つけた《光石》と《火石》を組み合わせて造作したの。

蝋燭は危険、燭台は高価で庶民には買えない。

だから――作ったのよ。誰でも手に入れられるランプを」


「はぁ!? これが……残石から!?」

オズが驚愕の声を上げる。


イリスは自信に満ちた眼差しで告げた。

「ゴミだと思われていた石から、命を守る灯りを生み出せる。

――市場に流してちょうだい、オズ」


光に包まれた商館で、誰もが言葉を失った。

それはただの発明ではなく、

「捨てられるもの」から「必要とされるもの」を生み出す革命の一歩だった。


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