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処刑台から始まる、狂人令嬢の記録  作者: 脇汗ベリッシマ
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処刑台で、彼女は国を救った

広場では、兵士たちが次々と剣を手放していた。


「む、無理だ………!」

「俺たちは……なんてことを……!」


恐怖と罪悪感に押し潰され、

王家直属の兵までもが鎧を脱ぎ捨て、逃げ去っていく。


残された者は、国を奪われていた “民” だけ。


次の瞬間――

群衆が立ち上がった。


「やれぇぇぇ!!!」

「この国を返せ!!!」

「偽物めぇぇぇ!!」


怒りという名の奔流が一斉に処刑台へ向かう。


偽王とヴァルトは叫ぶ暇もなく、

押し寄せた民の渦に呑まれ――

歴史から消えた。


その瞬間――

黒く染まった空が、静かに揺れた。


空に浮かぶ“真実”の映像は消えるどころか、

さらに鮮明になり、別の記憶へと切り替わる。


それは、牢獄での一幕。


がらんどうの空に、リオンとガレスの姿が投影された。


『手を取れ。

 一緒に逃げよう、イリス!』


『……連れ出す』


『大罪人を逃がしたら、貴方たちまで処刑される。

 せっかく努力して手に入れた地位を……棒に振るつもりですの?』


声はまるで王女のように凛と告げた。


『公爵令嬢として、申し上げます』


広場全体が息を呑む。


『貴族一人の命より、民の命を守りなさい。

 芽吹く命を守り育てなさい。


 上が腐っていても……

 貴方たちが腐らなければ、このオルディアはきっと大丈夫です』


そして映像が床を写した

それは彼女が深々と頭を下げた証だった。


『最後に会いに来てくださったこと……

 その勇気と優しさに、心より感謝いたします』


空に響くその声に――

広場は、沈黙した。


風が吹き抜ける。

涙の音がした。


誰かが嗚咽を漏らし、続いて次々と声があがった。


「なんて……強いんだ……」

「こんな人を……殺そうとしていたのか……」

「守らなきゃいけないのは……この人だったんだ……!」


涙で顔を濡らした民たちが、処刑台へと走り寄る。


「セイラン様!!イリス様!!ご無事ですか!!」

「鎖を外せ!急げ!!」

「国を救ったのは、この二人だ!!」


がしゃん、と鉄枷が解かれる。


イリスの手首に赤い跡が残るのを見て、

誰かが悲鳴のように言った。


「こんな……こんな人に罪があるものか……!」


セイランが静かに立ち上がり、

民に向けて小さく頭を下げた。


そして群衆は、歓喜とも嗚咽ともつかない声で叫んだ。


「うぉぉぉぉぉーーー!!!」

「俺たちの国を、俺たちの手で取り戻したぞーー!!!」

「オルディアは!!今日、生まれ変わったぁぁ!!」


黒い空は、ゆっくりと青へ戻り始める。


空だけが知っている。

ここにいた全員の涙と、

勝ち取った自由と、

イリスが流した“痛みの歴史”を。


イリスは空を見上げ――

かすかに微笑んだ。


その微笑みは、


泣きながら笑う“新しい国の始まり”だった。



黒く染まった空が完全に晴れ、

青空が顔を覗かせるころ。


広場にあった怒号も叫びも、

いつの間にか風に溶けていた。


――静かだ。


民たちはまだ涙をぬぐいながら、

二人の周りを崩れた円のように囲んでいる。


セイランは、ゆっくりとイリスの方へ視線を向けた。


「……イリス」


名前を呼ぶその声は、

かすれて震えていた。


イリスは、小さく息を吸いこみながら微笑む。


「生きましたわね、セイラン様」


「君も、だ」


ほんの短い言葉なのに、

――それだけで涙が出そうになるほど重かった。


イリスの足元にはまだ処刑台の影が残っている。


セイランはそっと手を差し出した。


「……もう、君をここに跪かせはしない」


イリスはその手を見つめ、

やがて静かに自分の手を重ねた。


鉄枷の跡が痛々しく浮かぶ手首。

その赤い痕を見たセイランは、

一瞬だけ息を呑んだ。


だがイリスは何事もなかったように微笑む。


「痛みなんて、もう慣れっこですわ」


セイランは首を横に振った。


「……慣れなくていい。

 もう二度と、こんな痛みを与えさせない」


イリスは一瞬だけ目を見開き、

すぐに、涙を堪えるように柔らかく笑った。


革命の余韻に包まれる中、

民たちの声が静かに響く。


「イリス様……ありがとう……」

「セイラン様……これからは私たちが支えます……!」


その声に、イリスは小さく呟いた。


「――この国は、今日やっと……息を吹いたのですね」


セイランは、イリスの横顔を見ながら言った。


「君が……蘇らせたんだ」


風が吹いた。


炎の匂いも、血の匂いも、

すべてを洗い流すように。


そして新しい歴史の始まりを告げるように、

遠くで鐘が鳴った。


イリスは空を見上げた。


さっきまで黒く染まっていた空。

その空に映った“痛みと真実の記憶”。

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