空が落ちた日、王は死んだ
突如、空が――落ちた。
青天を食い破るように黒が広がり、
王都全体が闇に呑まれる。
群衆は叫び、兵士でさえ足を止める。
「な、なんだこれは……!?」
「空が……黒い……?神の怒りか!?」
「処刑の……報いだ……!!」
誰かが叫んだ瞬間、
黒い空が“揺れた”。
波打つように歪み、そこに――
映像が浮かび上がった。
それは血だらけのセイランだった。
完全に倒れ伏し、息も絶え絶えの姿。
広場の空気が凍り、
次の瞬間、音声が流れた。
イリスの声だ。
『……あなた、何者?
本当の国王はどこにいったのかしら?』
『そんなもの――とっくに殺したよ』
群衆が息を呑む。
『じゃあ、貴方が“ヴァルトの本当の父親”というわけね?』
『当然だ。我が息子は実に優秀だ。
奴のおかげで、我が国アルシア皇国は
奴隷と鉱山で潤っている』
『この国の民は……実に使いやすい』
「……ッ!!」
「奴隷!?」
「鉱山!?」
「私たちの国を……利用していた……?」
怒りの声が次々に上がり、
兵士たちですら震えていた。
その時、処刑台の上で国王(偽)が叫んだ。
「やめろォォ!!やめろと言っている!!!
誰がやった!?止めろ!!止めさせろ!!」
怒り狂い、完全に恐怖に飲まれた声。
すると――
処刑台を見下ろす屋根の上で、ひらりと外套が揺れた。
「止めるわけねぇだろ」
高い場所に立つ男。
風を切って響く声。
オズだった。
月明かりを背に、外套が翻る。
その眼差しは獣のように鋭く、
口元にはいつもの飄々とした笑みが浮かんでいる。
「これはなァ……
イリス・グランディアが“真実を知った瞬間”の記憶だ」
イリスの目が大きく揺れた。
「……オズ……」
オズは上から見下ろし、怒鳴り返す。
「歴代の国王を殺し、
人の姿を奪う術で成り代わって、
この国を好き放題に食い荒らした――」
「そのクソみてぇな真実を!
今日この場で全部さらけ出してやるよ!」
国王(偽)が震えながら叫ぶ。
「な、何を言っているッ!
でたらめだ!!」
「でたらめかどうか――国民が判断するんだよ」
オズが指を鳴らした。
黒い空の映像が切り替わる。
またイリスとヴァルトの対峙。
『処刑される前に、知っておきたくて。
どうやって国王になりすましていたのです?』
『教えてやろう。
アルシア皇国には……“人の姿を奪う術”がある』
ざわつきが爆発する。
「人の姿を……奪う……?」
「じゃあ、私たちが見ていた“王”は誰だったんだ!?」
「本物の国王は……殺されていた……?」
黒い空に、
“本物の国王の暗殺計画”の機密文書が静かに映し出された。
その瞬間、
群衆が崩れた。
「許さない!!」
「国を返せ!!」
「偽物が国を操っていたのか!!」
「処刑なんて認めない!!」
兵士たちも動揺して武器を下ろし始める。
「お、おい……俺たちは……」
足元から崩れるように膝をつく者までいた。
そして――
群衆が、処刑台へと押し寄せた。
王城の門も混乱で破られる。
誰も、もう命令を聞かない。
偽物の王は顔を真っ青にし、震えて叫んだ。
「やめろォォ!!近づくな!!
私は王だ!!王なのだ!!」
オズは屋根の上から見下ろし、
冷たく、宣告するように言った。
「王じゃねぇよ。
てめぇは――ただの盗人だ」
空にはまだ、イリスが見た“真実”が映り続けている。
民の怒号。
兵士の混乱。
偽王の崩壊。
そして処刑台の上――
イリスは涙をこぼし、
オズを見て小さく微笑んだ。
その微笑みが、
黒い空の下で美しく光っていた。




