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処刑台から始まる、狂人令嬢の記録  作者: 脇汗ベリッシマ
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罪なき者のために、空は裂けた

それは、あまりにも綺麗な青空だった。


まるで、罪も涙も知らない世界のように

澄み渡り、広がっていた。


しかしその下――

石造りの処刑台は、凍りつくほど冷たかった。


膝をついた瞬間、

骨の奥にまで寒さが突き刺さる。


両手を縛る鉄枷が皮膚を噛み、

手首は赤く裂け、感覚は薄れ始めていた。


(……あぁ、すべて“あの時”と同じだわ)


イリスはわずかに目を伏せる。


空の色。

石畳の匂い。

武器の金属音。

そして――群衆のざわめき。


どれもかつて死んだ日の記憶そのもの。


だが一つだけ違うものがあった。


「イリス様はそんな人じゃない!!」

「冤罪だろ! 許せるか!!」

「私たちのために動いてくれた方だぞ!」

「彼女を殺さないで……!」


民の声だ。


怒り、悲しみ、祈り。

そのすべてがイリスに向けられていた。


わずかに視線を上げると、

セイランも同じように両膝をついていた。


かつて誇り高く王都を歩いていた青年が、

いまは民に守られるようにそこへ座っている。


(……どうして……あなたまで……)


胸が熱くなり、涙がにじむ。


しかしイリスは、ぎゅっと歯を食いしばった。


泣くわけにはいかない。

泣けば民の心配を煽ってしまうから。



広場の中心に立つ処刑官が、

巻物を開いて高らかに宣言する。


「――国王殺害未遂の罪により

 セイラン・オルディア、

 イリス・グランディアを処刑する!!」


瞬間、群衆が爆ぜた。


「やめろ!!!」

「陰謀だ!!」

「国がおかしい!!」

「二人は罪人じゃない!!」

「処刑なんてさせない!!」


怒号と悲鳴が波のように押し寄せる。


兵士たちは慌てて槍を構え、民を押し返す。


鎧の擦れる音、

怒鳴り声、

泣き叫ぶ子どもの声。


その混沌の中で、

イリスだけが静かに座っていた。


まるで運命を受け入れた女神のように。


そして、膝をつくセイランが

かすかにイリスの名を呼んだ。


「……イリス」


イリスは横目で小さく笑う。


「……夜が明けましたわね」


「……ああ」


「いい空です。

 晴れやかで……

 処刑されるには素晴らしく皮肉な晴天ですわ」


「君は……最後まで強いな」


「強くなんてありませんわ。

 ただ――」


イリスは空を見上げる。


「どうせ死ぬなら……

 あなたと同じ空を見て終わりたいと思っただけです」


セイランの心臓が大きく跳ねた。


鉄枷の軋み。

民の叫び。

兵士たちの怒号。


処刑官が槍を振り上げ――


その瞬間。


空気が変わった。


空が、黒く染まったのだ。


青空が墨を流し込んだように歪み、

風が鋭く逆巻き、

全員が顔を上げた。


「え……?」

「なにが起きてる……?」

「空が……割れる……?」


天が裂けるような轟音が響く。

イリスは静かに息を呑んだ。

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