偽王の玉座
イリスの宣言が響き渡った瞬間――
円卓の奥から、湿った笑い声がにじみ出た。
「……ふ、ふふ……ははははは!!」
元老院議長が笑っている。
その笑いは、人ではない“何か”のそれだった。
まるで、長い間隠してきた化け物が
やっと面を上げたかのように。
そして――扉が開いた。
二人の兵士に引きずられるようにして現れたのは、
血だらけのセイラン・オルディアだった。
膝をつき、息は荒く、口元から血が滴っている。
「セイラン……!」
イリスは一歩踏み出しかける。
その瞬間、重い足音が遅れて響いた。
国王が姿を現した。
しかし、イリスの心臓を凍らせたのは――彼の「目」。
国王の瞳は、
王家特有の琥珀色ではなく、
深いアクアマリンに染まっていた。
まったくの別人のような微笑みを浮かべながら。
イリスはゆっくり問いかける。
「……あなた、何者?
本当の国王はどこにいったのかしら?」
国王は嗤った。
低く、冷たく、底がない声で。
「そんなもの――とっくに殺したよ」
元老院全員が息を殺す。
イリスは一瞬まばたきし、
すぐに鋭い光で彼を射抜いた。
「そう。
じゃあ、貴方が“ヴァルトの本当の父親”というわけね?」
王は誇らしげに顎を上げた。
「当然だ。我が息子はよく働く。
実に……“よく”働く」
一歩近づきながら、
愉悦を隠そうともせずに続けた。
「奴のおかげで、我が国アルシア皇国は
奴隷と鉱山で潤っている。
この国の民は、実に使いやすい」
イリスの全身が、怒りで震えた。
「……最低ね」
その言葉は刃となり、
しかし王は笑っただけだった。
「では“反逆罪”として裁こうか」
議長が手を挙げる。
机の上に、処刑令状が二枚置かれた。
ひとつはイリス。
もうひとつは、血まみれのセイラン。
王は言い放つ。
「国王殺害未遂の罪で――二人まとめて処刑だ」
「違う!イリスは無実だ!!」
セイランが叫ぶが、
兵士が彼の腹を蹴り上げ、声を潰す。
イリスは静かに、王を見た。
「……やはり、あなたたちがこの国を腐らせていたのね」
王の瞳が嗤う。
「腐る?違う。
これは“収穫”だよ。イリス・グランディア」
「連行しろ!!」
金属音と共に、兵士たちが押し寄せた。
イリスは抵抗しなかった。
ただ、優雅に目を閉じる。
「――覚えておきなさい。
あなた方は必ず滅びます」
瞬間、兵士が背後から彼女を押さえつけ、
腕に縄が食い込む。
セイランが手を伸ばす。
「イリス!!!!」
だが彼の身体は動かない。
――国王(偽物)の命令が、
“王家の血”を通してセイランの身体を縛っている。
その事実に気づいた瞬間、
イリスの瞳が深い絶望と怒りで揺れた。
石造りの通路を引きずられ、
階段の下へ。
暗い、冷たい、湿った空気が漂う――
王城地下牢。
イリスの足元に落ちた縄が、静かに揺れた。
こうして、
イリス・グランディアは王国最大の罪人として囚われた。
すべては――
アルシア皇国による完全なる“侵略”だった。




