表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑台から始まる、狂人令嬢の記録  作者: 脇汗ベリッシマ
1/96

処刑台の空

石造りの牢獄は、湿っていた。

壁には薄い苔が繁殖し、暗がりからぽたりと滴が落ちる音が規則正しく響く。

私は粗末な藁の上に座り、冷たい鉄枷に繋がれた両手を見下ろした。指先の感覚は鈍く、擦れた皮膚は赤黒く腫れている。


――造作の力は、こうなるためのものではなかったはずだ。


造作。物に新たな性質を与える術。石と石を組み合わせて鉱石を生み、木と竹を編んで撓る箒を形作る。

伯爵家の娘として与えられたその力を、私はずっと「国のために役立つ」と信じていた。


けれど今、私は罪人としてここにいる。


「あなたならできるわ」――幼馴染は笑った。

「国のために頼む」――婚約者は低い声で念を押した。


二人を信じて、私は宝石を造作した。

出来たそれは確かに光を放った。けれど触れた瞬間、胸の奥に小さな違和感が刺さった。冷たく、爪先に痛みを与えるような歪さ。

私はその違和感を心にしまい込み、彼らの言葉だけを選んで信じた。


――けれど、今の私の罪状はこうだ。


「王の玉璽ぎょくじに使う珠が偽物だった」

「王家を欺いた」


重々しい語が広場を震わせ、人々の憎悪を煽る。


鉄扉がきぃ、と軋んで開き、縄に引かれた私は白日の下へと連れ出された。



石造りの処刑台は冷たかった。膝をついた瞬間、骨の奥まで凍りつくように痛む。

両手を縛る鉄枷が皮膚を食い込み、赤く腫れた手首が痺れた。だが、その痛みすら、これから訪れる運命に比べれば取るに足らない。


広場を埋め尽くす群衆が、耳を裂くようなざわめきを上げる。

罵声。嘲笑。憎悪。

「偽物の宝石を造作した大罪人だ!」

「王家に泥を塗った裏切り者!」

「造作の力を悪用した魔女め!」


鋭い石礫のように、言葉が次々と私を打ち据える。


――空は皮肉なほどに澄みわたり、どこまでも青かった。

まるで、この理不尽を見透かしているかのように。


「……どうして、私が?」


掠れた声は乾いた唇から零れた。

けれど誰にも届かず、群衆の喧噪に飲まれ、青空へ散って消えた。


分かっている。

私を罪人に仕立て上げたのは、幼馴染と婚約者。


「彼女が偽物を造作した」

「国の威信を踏みにじった」

「断罪こそ相応しい」


二人はそう証言した。


私は声を上げたかった。違う、と。裏切ったのはお前たちだ、と。

けれど喉は恐怖で焼け付き、息を吸うたびに血の味がした。


視線の先。群衆の前で抱き合う二人の姿。

婚約者と幼馴染。

互いだけを見つめ、微笑み合い、私を見ようともしない。


胸の奥が焼け付くように痛む。

悔しさ、悲しさ、怒り、絶望――それらが混ざり合い、波のように押し寄せ、喉を塞ぎ、声を奪った。


「斬れ!」「罪を償わせろ!」


地鳴りのような叫びが広場を覆う。

首筋にひやりと冷たい風が走る。処刑人が剣を掲げた気配。


私は瞼を閉じなかった。

臆病者だと思われたくなかった。

最後まで抗おうとする意地だけは残っていた。


だから私は、無慈悲な青空を睨みつけた。


その時――背後から、低い声がした。

見知らぬ騎士の声だった。


「……貴族も、血を流せば人だ」


刃が振り下ろされる音と、その言葉が重なった。

意味なんて分からなかった。

けれど、その声だけが、

死の闇の中で静かに灯のように残った。


そして――私は死んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ