処刑台の空
石造りの牢獄は、湿っていた。
壁には薄い苔が繁殖し、暗がりからぽたりと滴が落ちる音が規則正しく響く。
私は粗末な藁の上に座り、冷たい鉄枷に繋がれた両手を見下ろした。指先の感覚は鈍く、擦れた皮膚は赤黒く腫れている。
――造作の力は、こうなるためのものではなかったはずだ。
造作。物に新たな性質を与える術。石と石を組み合わせて鉱石を生み、木と竹を編んで撓る箒を形作る。
伯爵家の娘として与えられたその力を、私はずっと「国のために役立つ」と信じていた。
けれど今、私は罪人としてここにいる。
「あなたならできるわ」――幼馴染は笑った。
「国のために頼む」――婚約者は低い声で念を押した。
二人を信じて、私は宝石を造作した。
出来たそれは確かに光を放った。けれど触れた瞬間、胸の奥に小さな違和感が刺さった。冷たく、爪先に痛みを与えるような歪さ。
私はその違和感を心にしまい込み、彼らの言葉だけを選んで信じた。
――けれど、今の私の罪状はこうだ。
「王の玉璽に使う珠が偽物だった」
「王家を欺いた」
重々しい語が広場を震わせ、人々の憎悪を煽る。
鉄扉がきぃ、と軋んで開き、縄に引かれた私は白日の下へと連れ出された。
⸻
石造りの処刑台は冷たかった。膝をついた瞬間、骨の奥まで凍りつくように痛む。
両手を縛る鉄枷が皮膚を食い込み、赤く腫れた手首が痺れた。だが、その痛みすら、これから訪れる運命に比べれば取るに足らない。
広場を埋め尽くす群衆が、耳を裂くようなざわめきを上げる。
罵声。嘲笑。憎悪。
「偽物の宝石を造作した大罪人だ!」
「王家に泥を塗った裏切り者!」
「造作の力を悪用した魔女め!」
鋭い石礫のように、言葉が次々と私を打ち据える。
――空は皮肉なほどに澄みわたり、どこまでも青かった。
まるで、この理不尽を見透かしているかのように。
「……どうして、私が?」
掠れた声は乾いた唇から零れた。
けれど誰にも届かず、群衆の喧噪に飲まれ、青空へ散って消えた。
分かっている。
私を罪人に仕立て上げたのは、幼馴染と婚約者。
「彼女が偽物を造作した」
「国の威信を踏みにじった」
「断罪こそ相応しい」
二人はそう証言した。
私は声を上げたかった。違う、と。裏切ったのはお前たちだ、と。
けれど喉は恐怖で焼け付き、息を吸うたびに血の味がした。
視線の先。群衆の前で抱き合う二人の姿。
婚約者と幼馴染。
互いだけを見つめ、微笑み合い、私を見ようともしない。
胸の奥が焼け付くように痛む。
悔しさ、悲しさ、怒り、絶望――それらが混ざり合い、波のように押し寄せ、喉を塞ぎ、声を奪った。
「斬れ!」「罪を償わせろ!」
地鳴りのような叫びが広場を覆う。
首筋にひやりと冷たい風が走る。処刑人が剣を掲げた気配。
私は瞼を閉じなかった。
臆病者だと思われたくなかった。
最後まで抗おうとする意地だけは残っていた。
だから私は、無慈悲な青空を睨みつけた。
その時――背後から、低い声がした。
見知らぬ騎士の声だった。
「……貴族も、血を流せば人だ」
刃が振り下ろされる音と、その言葉が重なった。
意味なんて分からなかった。
けれど、その声だけが、
死の闇の中で静かに灯のように残った。
そして――私は死んだ。




