0028 横浜への襲撃
神界では混乱が生じていた。
多くの世界を代表する神々が一斉に集い、大規模な会議が行われていたのである。
その混乱の原因は、世界と世界の境界線にあった。
正体不明の女神が引き起こした異世界転生計画により、異なる世界同士の境界線が曖昧になり、不安定になってしまったのだ。
このままでは、ある世界の人間やモンスターがそれとはまた別の世界に迷い込み、崩壊を引き起こしてしまう可能性がある。人類滅亡ではなく、世界滅亡の危機だった。
自由奔放な神々の間でも、世界を滅ぼすことは禁忌だった。
もしその禁忌を犯してしまえば、不老不死の神であっても存在が消えてしまうという、事実上の死を経験することになる。
会議にすら呼ばれない、注目されていない無名の神々は多く存在した。
その中で、運命の女神ディスティーナスは一際異彩を放つ、金髪の女神だった。
アキラを異世界に転生させ、また元の世界に戻したのは全て彼女の仕業である。イレギュラーズが現代日本に取り残されたのもまた、彼女の計画通りなのであった。
神々が集まっている豪勢なドームの外で、運命の女神は不敵な笑みを浮かべる。
そんな女神の様子に注目する神界の住人はいなかった。
そしてまた、ディスティーナスは世界にさらなる混乱を生じさせる。
***
夜が明けてからはさらに大変だった。
母さんにいろいろ説明して、情報量に限界を迎えた母さんが体調不良で仕事を休むことになったり、7人が1階建ての一軒家のリビングに大集合していたり。
そのうちの3人はヒューマンですらない。
エルフ、サイボーグ、猫耳族。
ランランに至っては、この状況がいかに深刻なものなのかわかっていない。
「えーっと、なんであたしは外に出たらダメなんですか? 迷子になるからですか?」
「それもあるけど、問題はその猫耳なんだ。この世界には、エルフや猫耳族は存在しない。ファンタジーの中の存在で――」
「あたし、ファンタジーの中にいるんですか?」
「……まあ、そうとも考えられるけど、とにかく、まずはどうやってこの世界で生活していくか考えないとな」
現実的に考えると、7人分の生活費を払えるだけの余裕はないのだ。
母さんのパートの仕事、姉さんのバイト。
オレとシエナがなんとか仕事を見つければ……どうにかなるのか?
そもそも、戸籍とか住民票とかはどうすればいいのか。
異世界人の現代日本サバイバル、なんていうガイドブックがあればいいんだけど。
「俺が錬金術で価値のあるものを量産し、それを売る。そしたら収入に――」
「なるかもしれないけど、警察とか政府とかに怪しまれるって」
ダメだ。
現実的なことを考えるのは放棄したい。
「僕は耳を隠して街に出るよ。仕事も見つかるかもしれない。それに、この世界のことをもっと知らないといけないからね」
「うーん……」
エルフの耳くらいならなんとかなりそうだな。
帽子、いや、ヘルメットでも被せようか。
「この世界でも勇者パーティとして収益をもらえばいいんですよ~。近くをうろついてるモンスターを討伐して、認めてもらえば――」
「モンスターはいない。この世界は、あの世界とは比べものにならないほど安全なんだ」
ランランにはモンスターがいないという現実が信じがたいものだったらしい。
今までに見せたことがないような、神妙な表情をしている。
写真に撮っておこうかな。この世界でなら撮り放題だ。
「わたしはいい?」
「とりあえず今からこの世界を案内する」
「それなら私も行くから」
姉さんが挑発的にシエナに前に立つ。
シエナの方が背が高いので、少し姉さんの方が弱そうに見えた。
「姉さんにはここで母さんを看ててほしい」
「でも……」
「3人の監視も一緒に頼みたいんだ。姉さんにしかできない」
「わかった。そこまで言うならしかたない」
姉さんもチョロい。
これでひとまず、今後数時間のやるべきことがはっきりした。
オレとシエナは街の探索。姉さんは監視、母さんは寝る。
問題児3人は家に残ってテレビでも見ていてほしい。特にランランなんかは、この世界の画期的な薄い板に夢中になるに違いない。
異世界人の派手な反応に期待して、テレビをつけてみる。
「これは――ッ」
テレビをつけたのは失敗という名の成功だった。
朝のニュース番組にて、横浜の街を身長2メートルほどの牛のモンスターが襲っている様子が流れていた。
「ミノタウロス……なんでこの世界に……?」
「俺たちが異世界を移動したせいで、世界の境界線が不安定になった可能性が高い」
なんとなくそうじゃないかと思ってたよ!
報道によれば、ミノタウロスは現在確認されているだけで30人以上もの命を奪ったそうだ。
わざわざ言わなくてもわかる。
顔を見合わせなくてもわかる。
イレギュラーズがこの世界に必要とされていた。イレギュラーズ、現代日本でも出動だ。




