0017 月光に照らされる空中闘技場
美しい夕日が空中闘技場に入り込んでいた。
それにしても、太陽と距離が近いのはなかなかにしんどい。
昼は暑さも普通の2倍だったし、夕日の眩しさに限っては3倍だ。
決勝戦の相手はジャック。
同じパーティの仲間だし、これまで本気でやり合ったことはない。せっかくの機会だし、こっちも本気を出しますか。
「ジャック、どっちが強いか勝負だ! 本気で来いよ!」
「本気で戦えばこの会場が吹き飛ぶが、それでもいいのか?」
「いや……せめて観客を守る勇者精神くらいは見せてくれよ……」
「それもそうか」
戦場に2人。
ジャックと向かい合う。
その周囲が微かに夕日を反射し、さらに眩しくなる。
「これは?」
「お前が言ったんだろ。魔力の結界だ。これで思う存分爆破できる」
「なるほど」
ということは、これでオレも思う存分暴れられるというわけだ。
最高にかっこいいキメ顔を作り、手を天に向かって伸ばす。
別に中二ポーズが取りたかったわけじゃない。ロジャーに手本を見せようとしたわけでもない。
オレの力に反応して、空が少しずつ暗くなっていく。
太陽が西に沈み、月が現れる。
「これは……?」
「実はオレも魔術が使えるんだ――っていうご都合展開じゃなくて、超人的忍術! 究極奥義、月光の舞!」
「お前もついにおかしくなったか」
説明しよう。
オレの奥義『月光の舞』は、どんな天気であれ、どんな時間帯であれ、自分の上空を月光の輝く夜空に変えてしまうというもの。
「これほどまでの超能力を隠していたのか?」
「別に隠してたとかじゃなくて、使う必要がなかったというか……だって、オレが本気出さなくても、ジャックが爆破するかクリスが吹っ飛ばすかで片づくだろ?」
「……」
「しかもこれ、1回使ったらその次の日は夜が来ないんだ。王国全体に迷惑がかかる」
なかなかリスキーな技だろ?
実はこれ、転生した際に女神からもらったチート能力なんだけど。
チート能力とはいっても、努力しないと発現しない系の力。忍術を習得し、夜に最強の力が引き出せるように努力を重ねたのは、この能力を使うためだったということだ。
観客席を見る。
クリスもランランもシエナも、初めて目にするオレの異能に驚いていた。
イレギュラーズの仲間であっても、この能力を見たのは初めて。
というか、客席にいつの間にかケヴィンがいるんだけど。観戦資格はあるんだろうか。
「これでアキラの最大限の力が引き出された、というわけか」
「まあ、そういうことになるな。だから勝つのはオレってことだ」
滑らかに影に入る。
戦場のほとんどが影なので、どこにでも入り放題だ。
そして、どこにでも出放題。
瞬間移動の要領で、ジャックの背後に移動しては攻撃、死角に移動しては攻撃を繰り返す。
ジャックは魔術師なので肉体攻撃が弱点だ。普通のモンスター相手だと体術でも十分に戦えるだけの力はあるものの、オレやクリスといったフィジカル勇者の攻撃は到底受け流せない。
弾丸のような蹴りをくらい、飛ばされるジャック。
場外に出ないよう、浮遊魔術で持ちこたえている。
ここまで、オレの攻撃の対応に集中しているせいか、一切攻撃をしてこない。
「どうした? 調子でも悪いか?」
ついつい調子に乗って挑発してしまう。
でもまあ、ちょっとくらい大丈夫でしょ。オレが圧倒的に有利だし――。
「最大出力での爆破に備え、魔力を蓄積していた」
油断は禁物だ。
調子に乗って挑発なんて、絶対にしてはいけない。
これまでのはお遊びだったのかというレベルの、超絶特大爆発。
魔力結界のおかげで観客への被害はないようだが、当然、攻撃対象であるオレへの被害は凄まじい。
「もう二度と調子に乗らないから許してくれ――ッ!」
巨大爆発は結界で囲まれている。
よって、結界の中で反射し合い、時間の経過と共に威力を増していく。
多分10分くらいずっと爆破され続けていた。
影に潜むことができるのは1回につき5秒まで。インターバルが1秒なので、6秒に1回は爆破を受けることになる。
その結果――。
「……」
焦げた忍者が、場外に倒れていた……。
「くだらない挑発をするからだ」
「……いい勉強になったよ……」
魔術師トーナメントはジャックが制しましたとさ。
「アキラさん、すごかったですね! 空を動かすのどうやったんですか?」
優しい治癒師によって回復したオレは、落ち込みながら観客席に戻っていた。
ランランは猫耳を立てながら、興奮した様子でオレに飛びついてくる。
軽くて柔らかい体を受け止め、猫耳を撫でた。
「空を動かしたわけじゃなくて、強引に夜にしたんだ。かっこよかっただろ?」
「はい! でも、黒焦げになっちゃいましたねぃ」
「今日はいいことを学んだ。油断禁物! 調子に乗るの、ダメ絶対!」
強者と一戦交えるのはいい経験になる。
ジャックと真剣に向き合ったことで、自分の実力不足がわかったし、異世界に来た最終目的である魔王討伐のために、さらなる訓練を――って、あれ?
魔王はここにいる。
おかしいな。
人生の意義について考え始めると長くなりそうだったので、ジャックの表彰式でも眺めることにしよう。
『素晴らしい戦いだった、ジャック。魔術同士の熱い戦いを観ていたら、吾輩も戦いたくなってきた』
『そう言うと思った』
なんかオレが治癒されている間に、ジャックと魔王が戦う流れになっていたらしい。
そして今、本物の魔術同士がぶつかっている。
さらに言えば、結構な接戦だ。
「ジャックって魔王と張り合えるくらい強いんだな」
「おいおい、ちょっと待て……魔王?」
オレがさらりと口にした一言に、ロジャーが突っかかってきた。
「ジャックから聞いてないのか? この大会の主催者は魔王だぞ」
「え……?」
「アキラの言っていることは本当だ。オルド・ネメシスは本物の魔王だよ」
ロジャーとヴァネッサは驚愕した表情を浮かべ、戦場で繰り広げられている激戦に視線を戻す。
勇者パーティは魔王軍と戦うために作られるものだから、パニックになるのも当然だ。
「あの魔王に敵意はないみたいだから、気にする必要はないと思うよ」
シエナが言った。
ロジャーはシエナの言うことならなんでも聞く。
「シエナ殿がそこまで言うのなら……見逃してやってもいい」
「そこまで言ったわけでもないだろ」
「……どうやら魔王が勝ったようだ。さすがのジャック殿でも、魔王との戦いには敗れたか」
オレのツッコミは見事に無視されたらしい。
そして、悠長に会話している間に、勇者と魔王と戦いは終わってしまった。
「結局どうなったって?」
「オルドってやつは最初にジャックの魔術を完全に封じやがった。でもジャックは魔術を使わずとも強い。拳だけで魔王の攻撃を薙ぎ払い、少しは勝ち目が見えてきたかと思ったところで闇魔術に屈したんだ……」
ヴァネッサによる見事な解説。
現役魔術師がそう言っているんだから、そういうことだろう。
そして今、降参を宣言したジャックがオルドと握手をし、観客はスタンディングオベーション。決勝戦の10倍は盛り上がっている。
『いい戦いだった、ジャック。改めて聞くが、あの考えは変わったかな?』
魔王の声が会場中に響き渡った。
ジャックは魔王オルドとの間に何かしらの因縁がある。きっと、今魔王が言っているのはそのことだろう。
この戦いを通して和解しようと考えていたのかもしれない。
『俺の考えは変わらない。そう簡単に譲れるものでもない』
『そうか。それでこそジャックだね』
意見が食い違ったとしても、お互いを尊重し、認め合う。
もしかして、今そんな重要なシーンが巻き起こっているのか?
「結局、どんな因縁だったのかな?」
「オレたちにはわからないような、魔術の原理的な話だろ、多分」
「案外そうでもないかもしれませんよ~。海派か山派か、とかいう究極の派閥争いだったして」
ランランはやっぱり呑気でアホだ。
魔王とジャックが、そんな些細なことで対立するわけ――。
『絶対に犬の方が猫より可愛い』
『いいや、そこにいるランランちゅぁんを見ればわかる通り、猫の方が――』
そうそう。
忘れていたけど、ジャックもアホだった。
『それにしても、魔王と善戦できたのはいい経験になった。犬派を譲るつもりはないが、来年の開催も期待することにしよう』
そして、彼は盛大にやらかしてしまう。
この会場にいる全員に、主催者オルドが魔王であることを知らしめてしまったのだ。




