0014 こじつけ魔術
王都の上空に浮かぶ空中闘技場。
空中闘技場と地上を繋ぐ魔力エレベーターで、今回の戦場へと上がっていく。
「さすが魔王だよな。たった1日のためにこの闘技場を創造するなんて」
「俺でもできる」
エレベーターでの上昇はそれなりに時間がかかる。
とはいっても、5分程度だと思うけど。
イレギュラーズ全員が、闘技場に繋がるエレベーターに乗っていた。しっかり戦闘服を着て。
「会場の前までついてくる分には構わないが、俺の見送りをしたらすぐに帰ることだ」
ジャックが警告する。
オレたちなら中に入りかねないと警戒したんだろう。
残念でした。その通りです。
「ジャック、僕たちも中に入ることになってるんだ」
「調子に乗るな。いくらイレギュラーズとはいえ、観戦資格のない者が会場に入ることは――」
「僕たちも出場するんだよ。魔術師トーナメントに」
「……は?」
ジャック以外の4人で、アイコンタクトを送り合う。
面白くなってきた。
「僕たちも申請したらエントリー許可が下りた。許可証もここにある」
目を見開いたジャックが、クリスの手から許可証を奪い取る。
そしてさらに目を見開く。
「申請理由:空を飛ぶ能力は魔術の親戚みたいなものだから。申請許可:確かにその通りだからオッケー……なんだこれは?」
「僕は空を飛べる。魔術師も空を飛べる人だっている。つまり、僕の空を飛ぶ能力は魔法といっても過言ではない。だから主催者側も許可したんだよ」
「無茶苦茶だ」
ジャックは完全に呆れている。
クリスにも、主催側にも。
主導者に続き、今度はオレが追い打ちをかける。
「忍術は魔術と似てるし、原理的には近いだろ? だからオレも許可をもらった」
「……」
「魔力の銃弾を飛ばすのは魔術みたいなものだから、わたしも大丈夫だったよ」
「……」
「あたしもみんなと一緒に闘技場に行きたくて申請したんですけど、なぜかオッケーになってしました~」
「……」
全員の理論は無茶苦茶だ。それはわかる。
とはいえ、一応は論理的。
クリスの飛行能力、オレの忍術、シエナの魔力弾――どれも魔術みたいなものと考えられなくもない。
問題はランランだ。
ジャックに黙ってこそっり申請し、サプライズにしようと裏で合わせていたわけだが……いまだにランランが許可されたことには納得がいってない。
ジャックが今度はランランの許可証を確認する。
「猫は可愛いのでオッケー……クソが」
「酷いですよそんな~。あたしもダメ元でやったんですけど、なんかオッケーされちゃったみたいで」
「お前に対して言ったわけではない。アホな主催者に対しての言葉だ」
「安心しました。あたしはアホじゃないですもんね~」
「「……」」
ジャックとオレでじーっとランランを見つめる。
まさかアホの自覚がなかったとは。
空中闘技場はやっぱり豪華絢爛で、魔王が創っただけあって迫力がすごかった。
オレたちは今日、ここで魔術のの戦いを繰り広げるというわけだ。
観客席も広い。
東京ドーム並みの広さはある。
まあ、前世で東京ドームとか行ったことないんだけど(地元は横浜)。
「イレギュラーズ・ドームよりも広いですよ、ここ」
ランランは楽しそうだ。
イレギュラーズ・ドームっていうのは非公式に呼ばれている名前であって、正式にはセントリア闘技場。
なんでオレたちのパーティ名で呼ばれるかというと、レジェンド・オブ・イレギュラーズの建物のすぐ近くにあるからだ。
客席は運営側が勝手に割り振っているようで、オレたちは東側の最前列の5席ということだった。
単なるラッキーかと思ったけど、多分ジャックの魔術師としての功績だったり、イレギュラーズの知名度からこうなったんだろう。
こうして魔術師でもないオレたちが参戦できるようになったのも、イレギュラーズという勇者パーティの実績が評価されているからなのかも。
「おやおや、イレギュラーズの諸君ではないか。ジャック殿はまだしも、どうして魔術師でもないキミたちが――?」
最前列を割り振られたことの代償か、すぐ隣の席に別のアホが座っていた。
デストロイヤーズの首領ロジャーだ。
栗色の短髪をしっかりと整え、スタイリングはバッチリ。せっかくかっこいいのに、性格に難ありの男。
「それを言うならあんたもだろ」
「アキラ殿、いいことを聞いてくれた。キミならいつでもデストロイヤーズに歓迎する」
よくわからんけど、オレはロジャーに気に入られている。
いつからかは覚えてない。
多分たまに相手にしてあげているからだろう。クリスは絶対ロジャーのことを好敵手とか思ってないし、ジャックは気にもかけてないからな。
「キミたちには記憶に新しいことかもしれないが、ボクの父の会社であるグレイフォード産業は主催者のオルド・ネメシス殿と協力体制にある。魔術師でなくても、社長の息子であるボクはフリーパスだということなのさ」
「「「「「……」」」」」
ちょっと待ってくれ。
「ロジャーって、名字とかあるの?」
「なっ――無礼な! ボクはロジャー・グレイフォード。自己紹介の時に言ってるではないか……」
多分それ、誰も聞いてなかった。
ただのロジャーだとばかり思ってたし、この世界では高貴な身分でない限りは名字とか名乗ることはないし……。
「なんかありがとな。地下迷宮借りてくれて」
「ああ、いや、その……どうだ! つまりイレギュラーズはボクに大いなる恩があるということ! だからシエナ殿、ボクと――」
「嫌です。それに、恩があるのはお父さんの方です」
「そう、ボクの父はキミの義父でもある」
「違います」
この流れはいつものヤツだ。
ロジャーがシエナを口説こうとして、失敗する。
諦めた方がいいと思うけど、頑張ってるみたいなのであと3年くらいは黙って見守るつもりだ。
「……というか、話の流れで忘れそうになったが、どうしてキミたちがここにいる? もしや、キミたちもネメシス殿と深い繋がりが――」
「ない。魔術師として申請したら通ったそうだ」
ジャックが呆れ顔で答える。
呆れてはいるものの、気にしないことにしたんだろう。もう好きにしろ、ってスタンスだ。
お前たちが出場することは魔術師への冒涜だ!とか言って怒り出さなくてよかった。
その後、トイレから戻ってきたであろうヴァネッサが、ジャックに対して宣戦布告したり、いろいろあったけど――結局はヴァネッサがうるさいだけなのでカットする。
いよいよ1回戦が始まった。
魔王オルドの開会宣言とかがあったけど、控え室で準備してたから聞いてない。
ちなみに、オルドが魔王であるという事実はジャックや限られた魔術師しか知らないことで、一般の魔術師はただのすごい魔術師だと思っているらしい。
そりゃあ、ここに魔王がいるってだけで、いろいろ混乱するだろうからな。
ファンタジーのラスボスが、なんかジャックと因縁あって、なんか普通に王都でトーナメント開いているという状況。
イレギュラーズになっておかしな状況には慣れっこなので、脳はすんなりとその事実を受け入れてしまった。
「お前、忍者だな! イレギュラーズの忍者が、どうしてこの大会へのエントリー資格を得た! 魔術師なめてんのか!」
「……なんかごめん」
「その態度は魔術師への冒涜だぁぁぁあああ!」
対戦相手はフィルという魔導書使いだ。
少年みたいに小柄で、声もまだ高くて幼い。
手には厚い魔導書を持っていて、何か発動しそうな予感がする。あいつが何か唱える前に片づけた方がよさそうだな。
「必殺、影分身もどき」
超高速移動で自分の残像を生み出す。少年のターゲットが定まらなくなり、きょろきょろとした目の動きからも動揺が伝わってきた。
観客がどよめく。
残像でも見せておけば、なんか魔術っぽいし受け入れてくれるだろ。
多くの残像に紛れて、普通にキック。
オレの超人的な威力のこもった蹴りは、フィルの体が耐え抜くには強すぎた。勢いよく飛ばされてそのまま場外へ。戦場に残ったのは余裕の表情のオレ。
『うおぉぉぉぉおおおお!』
というわけで、なんとか観客の反感を買うことなく、1回戦を乗り越えられた。
他のメンバー及びヴァネッサも順調に1回戦を勝ち抜いた。
今回の総エントリー人数は30人。ジャックは実績が認められてシードなので、2回戦から出場する。
心配していたランランは、なぜか立っているだけで相手の攻撃をかわせてしまい(彼女の能力ではなく、謎の幸運体質だ)、これは未知の強力な魔術だ、ということで会場は盛り上がった。
シエナの魔力弾も普通に認められているみたいだったし、心配していたことは起こらなかった模様。
ただ1人を除いては……。
「これは魔術みたいなものだ! この聖剣クリスカリバーは魔法のように強くて凛々しい剣で――」
『黙れ! 恥を知れ!』
『魔術を剣で斬るのはないだろ! それは魔術への冒涜だ!』
『空飛べるのはただの超能力だろ!』
「超能力って魔術みたいなものだと――」
『ちがーう! 魔術はもっと、その、うわーって感じのヤツだ! お前のはすげーって感じだ!』
どういう違いなのかはわからないけど、クリスは観客の大ブーイングをくらって失格となった。
主催者的にはよかったらしいけど、観客の反応も大事だもんな。
クリスはかなり落ち込んでいた。
観客席でロジャーの相手をずっとしなくてはならない羽目になったからだ。




