ケビン・シュータック男爵
ケビンが男爵家を継ぐ事になったのは去年の事だった。
前シュータック男爵夫妻は貴族としては可もなく不可もない方達だった。
誰かに恨まれる、なんて事はなく領民の信頼も厚く、お父様曰く『人として信頼できる』と言わしめたぐらいだ。
だからこそ、突然の訃報には驚きを隠せなかった。
大雨が降っている中、領地の様子を見に馬車で駆けずり回っていた所、運悪く泥濘で馬車が横転、下敷きになってしまった。
馬車の運転手は生き残っていたが葬儀の時、申し訳無いとケビンに泣いて縋っていたのは印象的だ。
そんな理由で急遽後を継ぐ事になったケビンだけど、やっぱり大変だったみたい。
この時、17歳。成人まで後1年と言う微妙な期間、社交界やら貴族会議やら色んな所に顔を出して関係作りを頑張ってきた。
お父様から話は聞いていたので王妃教育を頑張れる糧になった。
それでも、やはり舐められる事もしばしばでその時はお父様が助け舟を出していたそうだ。
「この1年、死に物狂いで頑張って漸く実になり始めたら今度はシルビアがこんな目に合うなんてなぁ……」
「向こうが関係作りを拒否してきたんだもの、仕方が無いわ」
「シルビアの何処が気に入らなかったんだか……」
「そういえばケビンはどうなの? 婚約者は出来たの?」
そう言うと苦笑いして首を横に振った。
「何の特徴も無い中堅男爵家に嫁いでくる令嬢なんてなかなかいないよ」
「……自分で言ってて悲しくない?」
「……うん、今胸のあたりにグサッときた。 シルビアはどうなんだ? 婚約の話は来てるんだろ」
「暫くは婚約は良いかな、て。 疲れちゃった」
「公爵家には俺等には分からない苦労があるもんなぁ……」