近所の男爵
その日の夜は賑やかだった。
屋敷で働く者達が全員集まって私が領地に帰って来た記念のパーティーを開いてくれた。
なんでも、私が大怪我を負った事は屋敷にも伝わっていた、という。
彼等はみんな私の身を案じ心配して回復するのを祈っていたそうだ。
それと同時に私に大怪我を負わせる元凶である元王太子様に対して報復を考えていたらしい。
まぁお父様が宥めてくれたらしいけど下手したら国を揺るがす大騒動になっていたかもしれない。
心配してくれる気持ちは嬉しいし愛されている事がわかったけど、なるべく穏便に済まして欲しい。
「元王太子様は元々評判は悪かったみたいですし、みんな色々思っていたみたいですよ」
「そんなに評判悪かったのね」
「えぇ、出すコーヒーに雑巾を絞った汚水を1滴いれるぐらいですから」
……ここまで嫌われている人も珍しい。
そんな事をみんなと話しながら夜は更けていった。
翌日、私の元にお客様が来た。
「シルビア嬢におかれましてはご機嫌麗しゅう……」
「ケビン、いつも通りで良いわ。 なんか違和感あるし調子が狂っちゃうわ」
「……一応、貴族としての礼儀をしただけなんだけどなぁ。 改めてだけどシルビアお帰り、それからお疲れさん」
彼の名はケビン・シュータック、我が領の隣の領を管理しているご近所さんで男爵家である。
近所という事で家族ぐるみでの付き合いだ。
「こうして直接話すのって何年ぶりかしら?」
「シルビアが婚約する前だから10年は経ってると思うぞ。 貴族学院でも話す機会なんて無かったし」
ケビンとは同い年であり一緒に遊んだ仲だ。
ただ彼も色々大変だった事は知っている。
「領地の運営は順調?」
「周囲が協力してくれるから今の所は順調だ。 ……まさか退学して家を継ぐ事になるとは思っていなかったよ」
そう、ケビンは在学中に家を継ぐ事になり学院を去ったのだ。