9.母の警告
翌朝、ユウキは目覚めると、昨夜のことを思い返していた。星の異様な輝き、頭の中で響いた声、そして胸の奥に残るざわつくような感覚。すべてが夢だったのではないかと思いたかったが、あまりにも現実的だった。
支度を終えてリビングに向かうと、母が朝食の準備をしていた。テーブルの上には温かい味噌汁と焼き魚、炊きたてのご飯が並んでいる。いつもと変わらぬ朝の光景――のはずだった。だが、母の表情はどこか硬かった。
「おはよう、ユウキ」
「……おはよう」
ユウキが席に座ると、母は一瞬ためらうような仕草を見せてから、静かに口を開いた。
「昨日の夜、起きてた?」
ユウキの手がピタリと止まる。
「……なんで?」
母はじっとユウキを見つめた。その目には、言葉にできない何かが宿っているように見えた。
「夜遅くに、何か考え込んでるみたいだったから」
ユウキは昨夜の出来事を思い浮かべながら、慎重に答えた。
「ちょっと、星を見てたんだ」
母の表情がわずかに曇る。そして、ふっとため息をついた。
「ユウキ……お父さんのことは、もう忘れなさい」
その言葉に、ユウキは一瞬息を呑んだ。
「……なんで?」
「あなたがあの研究に関われば、危険な目に遭うかもしれない。それだけは避けたいの」
母の声は静かだったが、どこか張り詰めていた。
「危険って……どういうこと?」
「これ以上、詮索しないで」
母の言葉は、それ以上の追及を許さないような強さを持っていた。しかし、ユウキの中には、ますます疑問が膨らんでいく。
「母さん、知ってるんだよね? 父さんが何を追ってたのか。何を見つけたのか」
母は言葉を失ったかのように黙り込む。そして、しばらくの沈黙の後、ポツリと呟いた。
「……ユウキ、お願いだから、普通の生活を送ってちょうだい」
それだけ言うと、母は立ち上がり、皿を片付け始めた。会話はそこで終わった――いや、終わらせられたのだ。
ユウキは箸を置き、拳を握りしめる。
(母さんは何かを知ってる。でも、それを話そうとしない。)
母の態度が、逆にユウキの中の疑念を強くする。父は何を見つけたのか。なぜ、それが危険なのか。そして、なぜ母はそれを隠そうとするのか。
(確かめなきゃ……父さんの残したものを。)
ユウキはそっと立ち上がり、自分の部屋へと戻る。
手帳の中には、まだ解読しきれていない父の記録が残されていた。
もう後戻りはできない――そんな予感が、ユウキの胸に広がっていった。