7. 予兆の訪れ
翌日、ユウキは早朝に目を覚ました。窓の外はまだ薄暗く、夜の名残を残しているが、ユウキの心はすでに昨日の手帳の内容に支配されていた。昨日見た異星の者に関する記録、そして父が探していたリュウゼン星系の遺物。それらが、ユウキの中で大きな重圧となってのしかかっていた。
朝食を終えた後、ユウキは普段通り学校に向かう準備をしていた。しかし、どこかいつもとは違う気配を感じ取った。何かが不安にさせる。家を出る直前、ユウキはもう一度手帳を開き、昨夜見逃していた細かな部分を再確認した。
その時、部屋のドアがノックされた。ユウキは少し驚いて顔を上げると、そこには母が立っていた。
「ユウキ、ちょっと話があるの。」
母の表情は昨日とは違って穏やかだったが、どこか心配そうな眼差しがユウキに向けられている。ユウキは少し警戒しながらも、母に近づいた。
「どうしたの?」
母はゆっくりと深呼吸をしてから、言った。
「お父さんのこと、もう一度だけ考えてほしい。」
その言葉に、ユウキは一瞬立ち止まった。母の言葉は優しさを含んでいるようで、同時にどこか冷たい響きもあった。
「お父さんはもう戻ってこない。だから、あなたが無理してその謎を追いかける必要はないのよ。」
ユウキは一瞬、言葉を失った。母が言っていることは理解できる。だが、父が残した足跡が消えることを受け入れたくない、という強い思いもあった。
「でも、父さんが何を見つけていたのか、知りたいんだ。知るべきだと思う。」
母の表情が固くなった。それを見たユウキは、心の中で何かが引っかかるのを感じた。母はただ心配しているのではない。何かを隠しているような気がした。
「ユウキ、お願いだからもうその話はやめて。」
母の声は一段と強くなり、ユウキはその圧力に押されそうになった。しかし、心のどこかでそれがただの懸念から来ているのではないことを感じ取っていた。
その時、部屋の窓からふと外を見たユウキは、何か異常を感じ取った。町の外れに見える空が、わずかに赤みを帯びていた。それは、ほんの一瞬のことだったが、ユウキはその光景を見逃さなかった。何かが、確実に起こっている。
「母さん、外に…」
ユウキが言いかけたその時、突然、家の中の照明がちらつき、すべての電気が一斉に消えた。家全体が急に静寂に包まれ、ユウキの心臓が一瞬跳ね上がった。
「何だ、今の…?」
母も驚いた様子で周りを見回すが、その後すぐに冷静を取り戻し、ユウキに向かって言った。
「大丈夫、ただの停電よ。」
しかし、ユウキはその言葉を信じられなかった。停電にしては、あまりにも突然すぎる。そして、あの赤みがかった空が気になって仕方なかった。
ユウキは母の目を見つめながら、内心で何か確信に近いものを感じ取っていた。何かが始まっている。リュウゼン星系での異常、父が残した手帳、そして今の奇妙な出来事。すべてが関連しているような気がした。
ユウキは決意を新たにし、窓から再び空を見上げた。遠くに、まだ薄明るい空が広がっている。今、この瞬間にも何かが動き出しているような予感がした。