37. 宿命を知る時
扉の向こうに広がっていたのは、まるで宇宙のような空間だった。黒い無限の闇の中に、無数の星が浮かんでいる。いや、それはただの星ではなく、どれも微かに人の形をしているように見えた。
「これは……?」
ユウキが戸惑いながら足を踏み入れると、星々の光がゆっくりと集まり始め、一つの像を形作った。
それは、長いローブをまとった人物だった。顔は影に隠れ、表情は見えない。それでも、どこか懐かしいような気がした。
「ようこそ、選ばれし者よ。」
静かで重みのある声が響く。
「私はこの世界の管理者——いや、記憶の継承者と言った方が正しいかもしれない。」
継承者? ユウキは眉をひそめる。
「君はこの世界に呼ばれ、試練を乗り越えてここまで辿り着いた。そして今、すべての真実を知る資格を得たのだ。」
「真実……?」
ローブの人物は頷くと、手をかざした。すると、ユウキの目の前に光の球体が浮かび、そこに映像が映し出された。
それは、かつての世界の記憶——いや、この異世界が生まれる前の記録だった。
***
かつて、この世界は「星の王」と呼ばれる存在によって支えられていた。しかし、王の力を狙う者たちが現れ、星の均衡が崩れた。争いの末、王は力の大半を失い、世界は崩壊の危機に瀕した。
王は最後の力を振り絞り、世界を守るために「鍵」となる存在を創り出した。それが—— ユウキ自身 だった。
***
「僕が……鍵?」
ユウキは息を呑む。
「そうだ。君はただの旅人ではない。この世界が滅びるのを防ぐために、選ばれた存在なのだ。」
ユウキの心臓が高鳴る。ずっと感じていた違和感が、今ようやく形を成した。なぜ自分がこの世界に呼ばれたのか、なぜ試練を与えられたのか——その答えが、ここにあった。
「でも……僕は、何をすればいいんだ?」
「星の王の力を取り戻し、世界を再び繋ぐこと。それが君の使命だ。」
「どうやって……?」
ユウキの問いに、ローブの人物はゆっくりと右手を差し出した。その手のひらには、小さな光の粒が舞っている。
「この力を受け入れれば、君はすべてを思い出す。だが、それは同時に、君自身の存在を変えることにもなる。」
「僕の……存在?」
ユウキは戸惑いながら、光を見つめた。その瞬間、背後から聞き慣れた声が響く。
「待って! ユウキ!」
振り返ると、そこにはアリスがいた。彼女の表情は強張り、何かを必死に訴えようとしている。
「その力を受け入れたら……ユウキは、もう今のままじゃいられなくなる!」
「え……?」
アリスの言葉に、ユウキの手が止まる。
「どういうことだ、アリス?」
アリスは苦しそうに拳を握りしめ、震える声で言った。
「その力は、ユウキの記憶を戻すだけじゃない……本来の役割に戻すためのもの。もし受け入れたら……ユウキは、この世界の一部になってしまう。」
「この世界の……一部?」
「つまり……元の世界には戻れなくなるってことよ!」
ユウキの心臓が、激しく脈打つ。
元の世界には、家族や友人がいる。今までの人生がある。でも、この世界にはアリスがいて、仲間たちがいて、果たすべき使命がある。
彼は、今ここで選ばなければならなかった。
使命を受け入れるのか、それとも——。
その選択が、ユウキの未来を決めることになるのだった。