33. 目の前に現れた影
ユウキが一歩踏み出した瞬間、足元の地面がわずかに揺れ、空気がひんやりと冷たくなった。その感覚に彼は一瞬、息を呑む。あたりは相変わらず暗闇に包まれていたが、どこか違和感がある。
突然、遠くから低い声が響いた。「君は、本当にそれを守れると思うのか?」
その声は、ユウキの心の奥にまで届いた。声の主は見えないが、確かに存在していると感じる。ユウキは立ち止まり、辺りを見渡す。アリスは、彼の隣に立っていたが、その表情は硬く、何かを警戒しているようだ。
「誰だ…?」ユウキは声を上げた。
すると、暗闇から形のない影が現れ、次第にその姿が浮かび上がる。まるで闇そのものが形を持ち、ユウキの前に立ち現れたような存在だった。その影は、まるでユウキの心の中の不安を具現化したかのように、ゆっくりと動きながら近づいてきた。
「君の守るものは、果たして本当に守る価値があるのだろうか?」影が再び問いかける。
ユウキの胸が、締めつけられるように痛む。守りたいもの、約束、そして仲間――すべてを背負ってきたつもりだった。だが、影の問いかけに、心の中で揺らぎが生まれていた。守るべきものを守ることが、本当にできるのだろうか。自分にはその力があるのだろうか。
「僕は…」ユウキは言葉を詰まらせる。だが、すぐにアリスが前に出て、静かに言った。
「その問いに答えるのは、君自身だ。」
アリスの言葉は力強く、ユウキの胸に直接響いた。彼はその瞬間、自分の気持ちを再確認するかのように、強く息を吸い込んだ。
「僕は守る。守りたいから、前に進むんだ。」
ユウキはその言葉を、暗闇に向かって投げかけた。影は一瞬だけ静まり返り、次第にその存在が薄れていった。しかし、その姿は完全に消えることはなかった。影はただ一言、冷ややかな声でこう言った。
「ならば、試練はまだ続く。」
その言葉とともに、影は消え去り、再び静寂が訪れた。ユウキはその場に立ち尽くし、しばらくの間、深く息を吐いた。心の中の不安が少しずつ消えていくのを感じながら、彼は再び前に歩み出す。
アリスは無言でその後をついてきた。ユウキは振り返らず、ただ前に進むだけだった。試練が終わったわけではない。だが、今の自分には、守るべきものがある。そのために、どんな困難にも立ち向かっていく覚悟ができていた。
闇の中に、ほんの少しだけ光が差し込んできた。それは、星々の光のように、彼の心に新たな希望を与える光だった。