3. 母の隠したい過去
ユウキはリビングでのんびりとくつろいでいたが、母が台所で忙しそうにしている姿を見て、どうしても胸の中に引っかかるものを感じていた。あの、少し不自然な態度。何かがある。何かを隠している。そう感じてしまう自分に、ユウキは気づいていた。
食事の後、母が食器を片付けながら声をかけてきた。
「ユウキ、あまり無理しないでね。今日は遅くまで勉強しなくていいから、リラックスしておいて。」
普段ならそんなことを言われても、ありがたく受け入れるだけだった。しかし今日は、なんとなく引っかかる部分があった。
「うん、ありがとう。でも…」
ユウキは言葉を切りながら、少しだけ沈黙を作った。母が後ろで食器を洗う音が、妙に耳に響いた。ユウキは気づいてしまった、母が明らかに動揺していることに。
「母さん、何か…おかしい。」
母は一瞬だけ動きを止め、そのまま洗い物をしていた手をゆっくりと元に戻した。沈黙が広がる。ユウキはその間に母の顔をじっと見つめた。少しだけ眉をひそめ、目を逸らすその姿に、ますます違和感を感じる。
「どうしてそんなことを言うの?」
母の声は優しく、どこか冷静さを保とうとしている。しかし、その裏に隠された緊張感がユウキには分かる。
「おばあちゃんが言ってたんだ。父さん、どうしても戻らない理由があるって。」
ユウキの言葉に、母ははっきりとした反応を示した。顔が一瞬だけ青ざめ、目を大きく見開いた。まるで何かに驚いたように見える。その後、すぐに冷静さを取り戻し、無理に笑顔を作って言った。
「おばあちゃんが言うことじゃないわ。あなたも気にしないで。父さんのことは、もういいのよ。」
その言葉が、ユウキの胸に冷たい疑念を植え付けた。「もういい」とはどういうことだろうか。父の行方不明のことを、もう触れずに済ませてしまおうというのだろうか? それとも、もっと深い理由があって母がそう言うのだろうか。
ユウキは口を開こうとしたが、母の目が静かに語りかけるように見つめてきて、言葉が詰まった。母の目に浮かぶ不安そうな光が、ユウキをますます疑問に駆り立てる。だが、母がそれ以上語ろうとはしない。ユウキの心に、重い沈黙だけが広がった。
その夜、ユウキは眠れなかった。母の言葉、そして何よりもその目の奥に隠された何か。父を巡る真実は、どんどん遠ざかっていくような気がしたが、同時にその真実を暴く決意も固まっていた。どんなに母がそれを隠そうとしても、ユウキは見逃すわけにはいかない。
父を探し、家族の秘密を解き明かすために。ユウキは、心の中で一人で誓った。