23. もうひとつの星図
ユウキは再び、手に持っていた星図をじっと見つめた。それを手にした瞬間、何かの運命が動き出すのを感じていた。だが、その星図の背後には、ユウキが想像していた以上の謎が隠されていた。
「この星図、どうしても気になるんだ。」ユウキはナナに言った。彼の声には、疑念と同時に強い決意が込められていた。
ナナは少し俯き、無言でその星図を見つめていた。彼女の顔には、再びあの影が差し込む。まるで何かを思い出すように、彼女の目は遠くを見ている。
「何が気になるの?」ナナは静かに尋ねたが、どこか探るような響きがあった。
ユウキはナナに答える代わりに、星図をもっと詳しく見てみた。目を凝らして見ると、星々が繋がる位置に 微妙なズレ があることに気づいた。それは、他の星図には決して見られないような配置で、まるで何かを隠しているかのように錯綜している。
「これ、今の星空とは全然違う配置だよね?」ユウキは問いかけると、ナナはしばらく黙ってから、ゆっくりと頷いた。
「ええ、確かに…」ナナの声には何かを隠しているようなニュアンスがあった。「これは、古い時代の星図なの。今とは全く違う世界が映し出されていた頃のもの。」
「でも、これって今の空に映し出された星座とは関係ないの?」ユウキはしばらく星図を眺めた後、再び問いかけた。
ナナは少し考えるように目を閉じた。そして、深く息を吐き出すと、ゆっくりと語り始めた。
「これは、失われた星座の記録だと思う。」ナナの言葉は冷静だったが、ユウキはその言葉の意味を理解できないままでいた。「何百年も前、ある事件の後に、星座が変わったとされているの。その事件によって、世界が大きく変わり、星座も新たに配置され直された。」
「事件?」ユウキは驚きの表情を浮かべる。「その事件って、一体何?」
ナナは一瞬ためらったが、やがて答えた。「それは…伝説にすぎないわ。でも、今でも一部の人々の間で語り継がれている。裏切りの星が引き起こしたと言われているわね。」
ユウキはその言葉に心を震わせた。裏切りの星。その名前は、ユウキの耳にも強く残った。それが一体、何を意味しているのか、まだ分からない。
「裏切りの星って、どういう意味だ?」ユウキはさらに深く問い詰めた。興味と同時に、どこか恐怖を感じていた。
ナナは少し間を空け、視線を落としたままで答えた。「裏切りの星は、古代の王国にとっての破滅の星とされていたわ。それが空に現れるとき、大きな変革が訪れると言われている。」
ユウキはその言葉をじっくりと噛みしめた。大きな変革――それが一体何を意味するのか、ユウキにはまだ想像もつかなかった。しかし、確実に言えることがひとつあった。それは、彼が目の前にいるナナを、そしてこの星図を無視できないということだ。
「もし、その裏切りの星が現れるなら…どうすればいい?」ユウキはナナを見つめた。
ナナはその問いに答えることなく、再び視線を空に向けた。遠くの星々を見つめるその姿は、どこか孤独で、そして不安げに見えた。
「私もわからない。でも、何かを知っているはずだと感じている。これから起こることに関わりたくないという思いがあるけれど、どうしても目を背けられない。」
ユウキはナナの言葉に答えることなく、ただ星図を見つめ続けた。その星図が、彼の運命を大きく変える鍵であることは間違いない。
そして、ユウキはその星図が示す場所が、今後の旅路において重要な意味を持つことを、直感的に感じ取っていた。




