22. 揺らぐ信頼
ユウキは、天文台の隠し部屋で見つけた古びた箱を開けた瞬間、思わず息を呑んだ。箱の中には、見覚えのない 星図 が静かに収められている。それは、今までユウキが見てきた星図とはまったく異なる配置をしていた。細かい星の座標が複雑に絡み合い、まるで何かの秘密を隠すかのように繋がっている。
「これ……」
ユウキはつぶやきながら、その星図をじっと見つめた。光の加減で少しずつ浮かび上がる線や記号は、まるで 未来の星座 を示しているかのようにも見える。その異様さに心の奥で不安が広がる。
「ナナ……この星図、見たことがない。」
ユウキがそっと横にいるナナに声をかけると、彼女はその星図を見て、最初は黙っていた。だが、やがてナナは目を伏せ、何かを言おうとする。しかし、その言葉はしばらく出てこない。
「ナナ?」ユウキが再び呼びかけると、彼女はゆっくりと口を開いた。
「それは……昔、私が使っていたものよ。」ナナの声には少し震えが混じっていた。顔色もわずかに変わり、何かを隠すような、避けるような視線がユウキに向けられる。
「使っていた?」ユウキは驚き、思わず声を高めた。「でも、それって一体――」
「忘れなさい。」ナナの言葉が強くなった。「それを今掘り返しても、何もいいことはないわ。」
ユウキは手に持った星図を見つめ、言葉を選ぶように慎重に問いかける。「でも、これがどこから来たものなのか知りたくないか? 君が持っていたものなら、それが何を意味するのか、どうしても気になる。」
ナナは顔を背け、深い息を吐き出した。視線を合わせたくないのか、足元ばかり見つめている。
「それは、私が昔……隠していたもの。」ナナの声はさらに小さくなり、震えていた。「今の私とは関係ない。」
ユウキはその言葉に引っかかりを感じた。「昔」という言葉の裏に隠された意味。 それは単なる過去の話ではないと、直感的に感じたのだ。
「でも、これは今の僕にとって大事なことだよ。」ユウキの声は少し強くなる。「君が隠していたことだとしても、今、この瞬間に関わる問題だろ?」
ナナはしばらく無言でいたが、やがてゆっくりと顔を上げた。その目は、ユウキに向けるのが怖いのか、どこか遠くを見るようにしていた。
「ユウキ、信じて。」ナナはそう呟いた。
その一言が、ユウキの胸に深く響いた。しかし、同時にその言葉に隠されたものを、ユウキはまだ完全には理解できていなかった。疑念が生まれ、信じたい気持ちと疑う気持ちが激しくぶつかる。
部屋の中の空気が重く、ユウキは思わず息を呑む。ナナの目の前でその星図を広げることができたとしても、彼女がどんな気持ちでそれを持っていたのか、何を隠していたのか、簡単には理解できなかった。
しかし、ユウキの心の奥では、ひとつの確信が芽生えてきていた。ナナには、何かを隠している理由がある。その理由を知ることが、この先に進むためには必要だと感じていた。
「君の過去が何であれ、今の君を信じる。」ユウキはそう決心し、星図を元に戻すと、ナナに微笑んだ。
ナナはその微笑みに、一瞬だけ柔らかな表情を見せたが、すぐにまた冷静さを取り戻し、俯いた。
「ありがとう、ユウキ。」その言葉は、まるでどこか遠くから届くような、少し切ない声だった。
それから、二人はしばらく沈黙したまま、星図が示す謎に立ち向かう準備をしていた。