21. 星の先に見えたもの
暗い廃墟の中、ユウキとナナは次々と古い部屋を進みながらも、手にした記録を頼りに深い謎を追い続けた。天文台内の空気はひんやりとしており、霧の湿気が建物にしみついているのか、どこか不気味で冷たい。
「どこかに、まだ何かが残っているはずだ……」
ユウキは呟くように言いながら、手帳の記録を何度も確認していた。示された星座の配置はこの部屋のどこかに繋がるはずだという確信があった。しかし、足元の埃が積もった床に、何かが隠されている様子は見当たらない。
「ユウキ、こっち……」
ナナがふと立ち止まり、目を凝らして床の隅を指さした。その先に、木製の床板がわずかに浮いているのが見える。まるで誰かが意図的に隠すように設置されたかのようだ。
「これ、何かあるかも」
ユウキはナナと共にその板を引き上げてみると、隠し通路の入り口が現れた。通路の中は真っ暗で、冷気が立ち込めている。ユウキは懐中電灯を取り出し、光を当てながら慎重に中へ足を踏み入れた。
「こんなところ、今まで気づかなかったな」
「だって、こんなに隠れてたら分からないよ……でも、行ってみよう」
ナナの言葉にユウキは頷き、二人でその通路を進む。通路はやや狭く、壁が苔むしているのが見て取れた。その先には、古びた扉が立っており、まるでここから先に何か大切なものが待っているかのような予感を抱かせた。
「これ、開けていいのか?」
ナナが少し躊躇いながら尋ねるが、ユウキは深呼吸をしてから扉を押し開けた。
扉が軋む音を立て、ゆっくりと開く。その先に広がっていたのは、予想外の光景だった。広い部屋の中央に、古びた天文台の望遠鏡が置かれており、その前には無数の星座図や星の配置が描かれた古文書が広がっている。
「これ、全部……父さんが調べてたこと?」
ユウキが部屋を見渡しながら呟くと、ナナは静かに頷く。
「それにしても、すごい量だね……こんなにたくさんの資料があるなんて」
ユウキは望遠鏡に近づき、そっとそのレンズに手を伸ばす。すると、何かに引き寄せられるように、視界が一変した。
望遠鏡の先に映るのは、普通の星空ではなかった。無数の星が異常に密集し、ひとつの大きな渦を描いているように見えた。その星々の中心には、まるで引力に引き寄せられるように、一つの星が浮かんでいる。
「これ……何だ?」
ユウキは息を呑み、望遠鏡をさらに調整してみる。星々の動きが何か異常であることに気づく。彼が見ているのは、ただの星座ではない。
「まさか……」
その星の周りに、異常なほどに細い光の線が浮かび上がっている。それはまるで、別の次元に繋がる扉のように、星と星を繋ぐ架け橋のように見えた。
「これって、父さんが見つけた星座、いや、それ以上の何かだ」
ユウキは思わずその星に引き寄せられ、目を凝らす。
「でも、どうしてこんな場所に……」
ナナもその光景に圧倒されたようで、言葉を失っている。
その時、ユウキの背後から、突然、ギギギと重い音が響いた。
「な、なんだ……?」
ナナが振り返ると、部屋の隅にあった一つの箱が、ゆっくりと開き始めた。箱の中には、さらに不気味な光を放つ何かが眠っているように見えた。それが何なのかは、まだ分からない。だが、その時、ユウキは強烈な予感を覚えた。
「何かが動き始めた……!」
その瞬間、部屋の空気が一変し、異世界のような不安定さが満ちてきた。




