20. 記録された未来
ユウキは手に持った紙をじっと見つめた。そこに書かれている言葉の一つ一つが、どこか不安定で、でも確かな意味を持っているように感じられた。
「未知の軌道……それが何を意味するのか、分からないけど、父さんはこれを知っていたんだ」
ナナがその紙を慎重に覗き込み、眉をひそめる。
「それって、どういう意味だろう? 『未知の軌道』って、ただの言葉遊びじゃないよね?」
ユウキは黙って頷き、手に持った記録をもう一度確認した。
「軌道って、星の道筋のことだよな。それが『未知』って……何か予測できない動きってことか?」
「うーん、でも『見つけた場所』って書いてあるから、もしかしたらそれがどこか特別な場所を指しているのかも。新しい星の軌道、みたいな?」
ナナが自分の考えを口にすると、ユウキは少し考え込んだ。
「それはありえるな。新しい軌道、もしくは隠された星の位置。それに、父さんがそれに関する記録を取っていたこと自体が不自然だ」
「不自然?」
「うん、何かを隠すように、誰かがその情報を消した。例えば、天文台のデータが消えたのもそのためかもしれない」
ナナは何かを思い出したように、少し顔をしかめる。
「だとしたら、あの円盤が関係している可能性が高いね。あの模様、ただの装飾にしては意味がありすぎる」
ユウキは静かに頷き、さらに記録を読んでみる。最初は意味が分からなかった図の一部に、少しずつその内容が繋がってくる感覚を覚えた。
「これだ……」
ユウキはペンで図をなぞりながら、心の中で何かが動き出すのを感じた。父の残した記録が、今やっとその意味を持ち始めた。
「この図、星座の配置じゃない。星座じゃないけど、星が描かれている」
ナナはその図を見つめ、言葉をかける。
「じゃあ、何? ただの記号?」
「違う、これは……父さんが何かを見つけた証拠だ。これが示している星、もしくは場所がどこかで重要な役割を果たしているんだと思う」
ユウキは紙を丁寧に畳み、懐にしまった。
「この天文台で父さんが見つけたもの、それが何なのかは分からない。でも、きっとこの先に何かがある」
「それを探しに行こうってこと?」
ナナが少し驚いた表情を浮かべながら尋ねる。
「そうだな。ここに来た意味は、それを探すためだった」
ユウキは迷いなく歩き出し、ナナもその後に続いた。
天文台の中は今も静寂に包まれている。霧が外を覆っている中で、二人はその真実を求めて、一歩一歩確かな足取りで進んでいった。
まだ見ぬ未来、そして消された記録に隠された秘密――それらが繋がる時、何が待ち受けているのか。
ユウキは胸の中でその問いに答えるべく、足を止めることなく進み続けた。