2.父の行方と謎の記録
夕食を終えた後、ユウキは自分の部屋に戻るため、リビングから立ち上がった。母はキッチンで片付けをしているが、ユウキはその背中を一度だけ振り返ると、静かに部屋へと向かう。
部屋のドアを閉めると、ユウキはふと立ち止まり、机の上に置かれた古びた写真立てに目を止めた。そこには、幼いころの自分と父が映っている。父はいつも優しい笑顔を浮かべ、ユウキを肩車しているその瞬間が切り取られていた。あの頃は、何も心配することなく過ごしていた。
「父さん…」
ユウキはその写真をじっと見つめながら、呟いた。父は、ユウキがまだ小さかった頃、よく一緒に遊んでくれた。毎週のように出かける冒険が、ユウキの心の中では今も鮮明に蘇る。星空の下で父と一緒に見上げた、無数の星々がどれほど美しかったことか。父の言っていた「いつか、あの星々を越えていくんだ」という言葉も、今でも耳に残っている。
だが、その父が行方不明になってから、ユウキの心は重く沈んだままだ。
ユウキは机の引き出しを開けると、そこにあるノートを取り出した。それは父がよく使っていた手帳で、宇宙航路の計画や、星々の地図が細かく書かれている。どこか遠くの星系に向かうための準備が、父の筆跡で記されていた。ユウキはそのノートを手に取ると、ページをめくりながら、ふとある言葉に目を留めた。
「リュウゼン星の航路が急速に変動している…」
「この星系には、何かが潜んでいる…」
そのメモは、父が出発する直前に書かれたもので、言葉の端々に何か警告のようなものが感じられた。ユウキはその意味を理解できなかったが、父が何か大きな秘密を抱えていたことだけは確かだった。
「どうして…何も教えてくれなかったんだろう。」
ユウキは手帳を机の上に置き、深く息をつく。母は何度も言っていた。「お父さんは仕事で忙しかったから、あなたに心配させたくなかったのよ」と。でも、ユウキは知っていた。父が本当に伝えたかったことは、他に何かあるような気がしてならない。それが、ただの仕事の都合や事故で済まされるわけがない。
父が突然行方不明になったのは、約半年ほど前のことだった。それまでは、時々家族全員で過ごす時間もあった。だが、その後、何の前触れもなく父は宇宙船での任務に出てから帰ってこなかった。最初は、宇宙航路での事故だと言われていた。しかし、その話にはどうしても納得できなかった。
ユウキはその時の記憶を思い出す。母が震える声で「事故だ」と伝えたとき、自分も一瞬は信じた。だが、すぐに疑念が湧いた。宇宙航路の事故というのは、そんなに簡単に起こるものではないと、ユウキはどこかで感じていた。
「お父さん、どこにいるんだろう…」
ユウキは窓の外を見つめた。そこにはリュウゼン星の夜空が広がり、無数の星々が煌めいていた。あの星々の中に、父がいるのだろうか。それとも、父はあの星々を越えて、どこか遠くの星で誰かと戦っているのだろうか。ユウキは、そう考えると胸が熱くなった。
そして、もう一つのことを思い出した。あの日、父が出発する前にユウキに渡したペンダントのことだ。父はそのペンダントをユウキに手渡しながら、「この星の光を忘れないで」と言った。ユウキはその言葉の意味を理解できなかったが、今、ペンダントを手に取るたびに、その言葉が何か特別な意味を持っていたように感じる。
ユウキは机の引き出しからペンダントを取り出し、静かに手のひらに乗せた。それは、父が最後に残した唯一の手がかりだった。星型のペンダントは、温かくユウキの手に馴染んだ。
「絶対に、父さんを見つけ出す…」
ユウキは静かに誓った。心の中で、その誓いを何度も繰り返す。彼の冒険は、もう始まっているのだ。