17. 失われた記録
昼休み、ユウキとナナは図書室の隅に座り、机の上に広げた天文学の本を見つめていた。
「やっぱり、この円盤の模様、星座っぽいんだけど……完全に一致するものがないんだよね」
ナナが本をめくりながら、少し眉をひそめる。
「でも、これが星の配置を示しているなら、どこかに該当する星があるはずだ」
ユウキは父の手帳を開き、円盤の模様と見比べた。
すると、一つ気になる記述を見つけた。
『観測データの消失について』
「観測データの消失……?」
ユウキはページをめくる。そこには、父の筆跡でこう書かれていた。
『この現象を記録しようとしたが、なぜかデータが残らない。何度試しても、星の位置情報が欠落する。これは偶然ではない』
「データが……消える?」
「それって、記録ミスとかじゃなくて?」
ナナが顔を上げる。
「いや、たぶん違う。父さんは研究者だったし、そんな初歩的なミスをするとは思えない」
「じゃあ、誰かがデータを消したってこと?」
ユウキは考え込んだ。
「もしくは……そもそも、この星のデータが記録できない何か特別な理由があるのかもしれない」
「そんなことってある?」
「分からない。でも、もし父さんがこの星について何か重大なことを発見していたとしたら……?」
ナナはしばらく沈黙した後、小さく息をついた。
「……ちょっと怖くなってきた」
「俺もだよ」
父は何を見つけたのか。そして、なぜそのデータは失われたのか。
ユウキの胸の奥に、不安と興奮が入り混じる感覚が広がっていく。
(父さん……あんた、一体何を知ってたんだ?)
その答えを知るためには、まだ足りないものがある。
ユウキは手帳の最後のページをめくった。そこには、ある一つの場所の名前が書かれていた。
――『天文台』
「ナナ、次の行き先が決まった」
「……どこ?」
ユウキは手帳の文字を指差し、真剣な眼差しでナナを見つめた。
「天文台だ」