13. 見えざる視線
ユウキは足早に丘を下りた。
背後の気配を意識しすぎているのかもしれない。でも、どうしても振り返る気になれなかった。
(誰かがいた……? それとも、ただの風の音?)
手にした箱の重みが、妙に現実感を持って感じられる。ノートと円盤――父が残したもの。きっと、これが何かの鍵になる。
「……早く家に帰ろう」
だが、帰路についた直後、不意に強い視線を感じた。
ピクリと足を止める。
周囲を見回すが、誰もいない。
夕暮れの薄暗さが、あたりを不気味に染め上げていた。
「……っ」
鼓動が速くなる。思わず歩くスピードを上げた。
しかし、数歩進んだところで――
「ユウキ」
突然、背後から名前を呼ばれた。
瞬間、全身の毛が逆立つ。
(今の……誰の声?)
振り向こうとするが、体が動かない。まるで見てはいけないと本能が警告しているようだった。
「……ユウキ……」
もう一度、声が響く。
――父の声だった。
「……父さん?」
震える声で呟いた途端、身体の力が抜けるように動きを取り戻した。勢いよく振り返る。
だが、そこには誰もいなかった。
「……なんなんだよ、これ……」
手のひらに汗が滲んでいる。
ユウキは震える手で鞄を抱え直し、逃げるように家へと駆け出した。
夜空の星が、不気味なほど強く瞬いていた。