百合小説【第9話】被っちゃったね。これあげる。
午前9時50分を過ぎ、2限目も遅刻した。潔くコンビニで新発売のに○さんじウエハースを買いお昼の楽しみとして持っていく。
3時限目の終わり、スマホから連絡がある。
『お昼食べよっ』
嘉陽田さんからの連絡だった。
「どこにいますか」
『いつものところー』
「わかりました」
4限目が終わり、いつも通りの道を通る。変わったのは、トイレを通り過ぎて、国際学系の棟に行くことだ。
「遅い」
「まだ授業終わったばかりなんですけど」
そんなことを言いながら声色は高く、嬉しそうに言う。言動と一致しないし、表情の喜怒哀楽が激しい人だ、少し見ていて楽しい。そんな表情を浮かべ、嘉陽田さんは小さい手持ちバッグからプラスチックのタッパーを取り出す。
「これ、お弁当。これさっちゃんの分も 」
同じタッパーが2つ、そのうちの一つを私に渡してきた。私に、ということだろうか?
「ありがとうございます。けど、私今日持ってきてしまって…」
「購買じゃないの?!」
「ママ今日休みだから、お弁当作ってくれて」
「どうして?!」
「その…昨日さっちゃんのパン食べちゃったじゃん?だから!頑張ったの」
これは懺悔的なアレなのか、それとも褒めて欲しいのか、徐々に目のハイライトが輝いてくる。前者では無さそうだ。
「そこまでお腹すいてなくて…」
「なら交換こしよ!」
「?!」
「凄いでしょー」
ち○かわのキャラ弁である。ち○かわ、ハ○ワレ、う○ぎの3種類とそのまわりにさすまたっぽい何かとたこさんウィンナー、唐揚げ、卵焼き…野菜がない…ジャンキーなものばかり入っている。
「初めて見ました…可愛い…食べづらい」
「ち○かわ知ってる?」
「うん、モ○ンガとカ○さんの関係性を見るのが好きでね、たまに考察も見るよ。」
「私もモ○ンガ好き!あの一方的で傍若無人っぷりとモモ○ガが周りに相手にされない感じがとっても可愛い、お家で飼って服従させたいなぁ」
「…」
「あ、引いてる?」
「いえ、いつもの事ですから」
「見捨てられてる?!」
知らない単語が出てきた。
「ぼうじゃくむじん…ってなんですか?」
「アレダヨアレ!自分勝手に振る舞うことをそうい言うの」
「なるほどなるほど…つまり嘉陽田さんのことですね」
「酷い」
キャラ弁は崩していいのかが分からない。けど崩さないといけないのでそこの辺りがもどかしい。
「これどう食べればいいんですか?」
「メス」
「は?あ、はい。」
多分箸だろうと私の箸を渡す、受け取って間もなくち○かわの耳を取り、それを箸で持ち上げた。
「口開けて」
唐突なことで挙動不審になる。口をモゴモゴしていると、顎を左手で下げ、口に
「〝ん゛〟」
入れられた。
「美味しい?」
少し固くまとめられた米とウィンナーのケチャップと唐揚げの油が絡まっている。ただのコメのはずなのに少し口が寂しくなる。
「野菜が欲しくなりました」
「わかってて言ってるでしょ」
野菜が無いことをあえてつつく、今は本当に野菜が欲しい。
「嫌いなんですか?」
少し黙り込む…。よほど野菜が嫌いなのだろう。
「シラを切らないでください。」
「別にいいじゃんさ!」
「ちゃんと野菜食べてますか?野菜って体に体の基礎体力をつくるう゛」
「理系くんは知的なお頭でよろしいねぇ」
親が子を褒めるように優しく撫でられる。
「やめてください…ご飯…食べたいんですけど…」
手を振り下ろしたいが、少し心地が良くなってきた。
「頭丸いねぇ」
「あぁもう!!!」
手を振り払い席を立つ、顔を赤らめながら声を上げる。
「だからなんでそんな距離感近いんですか!!」
「ご、ごめんなのだ…ゆ、許して欲しいのだ」
被害者ぶり始めた、あたふたしてどうすればいいのが正解なのか分からない。
「ゆ…ゆ…許して」
「理由聞いてるだけなんですけど」
「私の頭を撫でてくれたら許してしんぜよう」
「なんなんですかその上から目線」
そんなことを言いながら少しかがめて頭を撫でる。泣いた素振りをしていた顔が分かりやすく変貌する。
「ぐへへ」
「きも」
そんなことを話しながら、その撫でる手は止まらなかった。
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