百合小説【第56話】嘉陽田さんvsママ
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「小百合ちゃん、杏里ちゃん!いらっしゃい」
「こんにちは〜」
ドアを開けて鈴が鳴ると、幸代さんがそれに気づき、こちらを振り向いた。何か慌ただしくしているにもかかわらず、わざわざカウンターから出てきて、私たちを奥の席に案内してくれる。
「杏里ちゃんから聞いたよ〜大変そうだねぇ」
「まぁ、うん…はい。」
どうしてこうなってしまったのか、いまだに分からない。この話が終わったら私はどうなるのだろう。そんなことを考えていると、幸代さんがテーブルにおしぼりを持ってきて、注文を聞くついでに呟くように話した。
「あの人となるとねぇ…」
「そんなにですか」
「そうだと思うな。PTAとかで何回か話したことがあるけど、人当たりが良くて、できる人って感じだったよ。たまに『小百合が今日泊めてほしいって』って瑞稀から聞いて準備したりしてたし…小百合ちゃん、こう見えて家出はよく…」
そのとき、嘉陽田さんの携帯から着信音が鳴り出す。
「あ、電話だ。ちょっと外行ってくる」
席を外し、小声で電話を受けようとドアを開けると、その前にママが立っていた。
「白石さん…確か名前は嘉陽田さんだったかしら?」
「はい、朝はどうも!どうぞこちらへ」
私たちが座っていた席までママを誘導している途中で、嘉陽田さんとママがすれ違うことなく視線を交わした。
「あら、茜さん。PTA以来ねぇ」
「幸代さん、お久しぶり。相変わらずお元気そうで。」
そのまま幸代さんがママと嘉陽田さんを奥まで案内し、その席に座らせた。
「いえいえ、茜さんこそ。ご注文が決まったら声をかけてくださいね」
「あの…ママ」
「何?」
「あぁ…いえ、その…」
「何かあるなら言って。そういうのイライラするから。」
「おじいちゃんって…」
「あぁ、寝込んじゃったわよ。代わりに車を出してさぁ〜。車嫌いなんだよねぇ、特に軽自動車は疲れるし。あら、ごめんなさいね〝お友達〟の前で。」
どうやら不機嫌そうなママが、心の内を漏らすように話し始めた。おじいちゃんの話題を出してもいいのだろうか…。今は出すべきではない気がする。朝の発言を撤回しろと言わんばかりに、「お友達」という言葉を強調して。
「付き合い始めたらご両親に言うべきかと思いまして。」
どこからどう突っ込めばいいのか、すでに分からない。ここまでついてきてしまったが、私たちは付き合っているのかと言われれば、つい最近否定したばかりである。しかし、付き合っている人以上の関係にはなってしまっている。つまり、「付き合っている」というのは妄言だ。「友達以上恋人未満」とでも言うべきだろうか。
「コソコソやってればいいじゃない、恋愛ごっこ。」
最悪の空気で話し合いが始まってしまった。