百合小説【第54話】また会う日まで
「衣装チェンジ〜」
「かわいい〜」
学校説明会が終わり、みほちゃんの家族と再び合流することができた。
「行きたいところある?」
「これ!マ○オカート!」
「マ○オカート?」
どうやら椅子や三輪車などの遊具を使って奥にあるゴールまで目指すものらしい。
「S○itch版もあるじゃん」
かくして、私たちはマ○オカートが試遊できる教室に向かって、リアルとゲームの順を置いながら楽しんだ。
「○いのくせに名前気だぞ!」
「子供相手なんだから!下手設定どこいったんだよ中身でてんぞ」
「努力ですぅ!勝ちは勝ちですぅ」
「情けないぞさっちゃん!」
ガヤから罵声が飛びながらもキャラクターとしてではなく、影井小百合としてやることにしたが、境界かどうも認識できない。その後も陶芸部や演劇部にバレーボール部などが行っている体験行事などを行っている合間にも終了の合図がなる。
「本日はどうもありがとうございました。」
「こちらこそ、今日はとても楽しかったです。来てくださってありがとうございました。」
みほちゃんがその小さな拳を握りしめてながら、姉の手をグッと掴んで泣くのを堪えている。下を向いて、小声で何か言っているそうだった
「みほ、まいもお姉さん達にお世話になったんだから、お礼は?」
「ありがとうございました」
「やだ」
「みほ、その気持ちはすごい分かるけど、お姉さん達とずっと一緒にいれる訳じゃないんだよ。それにね、もうすぐお姉さんたちの魔法が解けちゃう。」
「でも…」
眠たげな瞼を手で擦りながら、この時間が永遠では無いとみほちゃんは悟った。1度でも泣いてしまったら、私もきっと耐えられなくなる。目線が会う位置までしゃがんで、女の子の頭をあやす様に撫でた。
「○いちゃん…」
「もうお別れだね、私こんなに学園祭楽しめたの初めて」
「う」
「みほちゃんのおかげかな?だからあえて嬉しかったよ。」
姉から手を離して、みほちゃんの目から溢れる雨を拾い拭っている。それを見て私も泣きそうになりながら、優しく受け止めるように抱きしめた。
「泣かない泣かない」
「うぅ」
『灯篭祭にご来場頂きありがとうございました。4時30分で完全閉鎖となりますので、学内に残っているお客様は正門からお帰りくださいませ。』
校内で流れたアナウンスが、この関係の終わりを明確に表した。
「みほ、もうお別れの時間だよ」
泣き止みかけのところで私の持っていたハンカチを取り出して、みほちゃんの涙を拭っている。
「お姉ちゃんありがとう」
「はっフェ?!…どう…いたしまして」
○いちゃんと呼ばれていたにもかかわらず、今まで無かったその呼び方でふと我に返ってしまった。
「変なの」
「笑わないでよかよちゃん」
「ありがとう」
先程貸した私のイニシャル入りのハンカチを返そうとしてきたが、私よりもみほちゃんに持っていて欲しいという気持ちがあった。
「それあげる」
「いいの?」
「うん、返しに来てもいいけど、その時はお姉ちゃんと一緒に返しに来てもらおうかな。」
「私、頑張ります」
みほのお姉さんがそう告げて、正門まで一緒に歩いて見送ることにした。
「またね」
「うん」
その見送った先に沈みかけている白い夕日を、私は決して忘れない。
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