百合小説【第45話】学祭前日に進路面談やらないで欲しい
「さっちん…」
「嘉陽田さん」
「ダメ待って無理尊い影井小百合を産んでくれたお父さんお母さんに感謝だよこれは」
「カメラ、嘉陽田さんちょ…とら」
まだ肩にカメラ拒否のリボンをつけていない。とはいえ、付けていたとしても嘉陽田さんはなんの躊躇いもなく撮ることだろう。なぜなら前例がそうだし今がそう。
「こういうのは大人になって見返すと味があっていいんだよ」
話してることが既に母…いやおぢさんのような深く妄想を膨らますと鳥肌か止まらない。
「影井!ちょっと来い」
鳥肌が治まる気配はなく、背中にくる声は担任の先生だった。
「やーだよー行こ!」
「あ、はい。」
嘉陽田さんが先生に向けて舌を出し逃げようと私の手を掴み反対側のドアに向かう。連れられるように廊下に走り出そうとしたが既に先回りされていた。
「あ、先回りずるいー」
「別に怒るとかじゃなくてまた別の話だ。職員室来れるか?」
「なーにーせんせぇー?ちょっと影井ちゃん怯えてるよー」
嘉陽田さんが先生のあれこれに噛み付いてる。少しややこしくなりそうだけれど、大丈夫だろうか。
「模試の結果で、今のうちに話したくてな。」
「模試ですか…?」
「怖がらせないでよ。ハラスメント禁止だからね。それで、どういうお話?」
「進路に関係する大事な話だ。白石さん影井さ」
「嘉陽田です!まぁ白石でもいいけど」
「あぁ嘉陽田さん。影井さんお借りしてもいいかい?」
そう言われて職員室にゆっくり向かいながら先生が口を開いた。
「この間模試あったろ?」
「あ、はい…が…どうかしましたか?」
「まず、物理化学で影井はどちらも満点だ。ただ文系科目が壊滅的だなぁ…」
「はい。」
文系科目は目をつぶって欲しいものだと思いつつ少し落ち込む。文系科目がどうこう言うなら今すぐに帰りたい。
「そこでなんだが、IChOに出る気は無いか?」
IChOと言うと8月辺りに開催される化学オリンピックのことを指している。はずである。
「化学オリンピックですよね…どうしてですか…?」
「この間の進路希望調査あったろ、国立科学大の理学院。去年から入った女子枠に関して、影井、興味はあるか?とりあえず中入って」
職員室の先生の机に招かれるのかと思いきや、その教室内の仕切りのある部屋に案内された。
「それで…女子枠、どうだい?」
「いや…その…共テ…やばくて…」
「女子枠も共テそこまで関係ないんだ。一応足切りもあるが、2次、3次だと学力試験が優先される。3次試験の配点も普通なら面接100点になるところが女子枠なら学科が追加されて面接10点に学科で90点だ。影井にピッタリだと思う。」
女子枠に関して存在は知っていたがそこまで調べていなかった自分の甘さと女子枠の条件に驚嘆しつつ、何故そこまでするのかがいまいちよく分からない。
「なんでそんなに…」
「元々科学大の院に行ってたんだ、元々国工大だけど。それに第1志望科学大はそう珍しくないからな。」
「それでどうして化学オリンピックなんて…」
「科学大の試験に慣れる意味もあるが、推薦でもしその実績があればかなり有利になる。それにうちは毎年出てるしな。」
「一般だと…先生的にどう思います…?」
「高1の時点で562点なら正直余裕だと思う。そのほとんどが物理化学、数学と地理、それから情報で稼いでる。英語3割は正直どうかなと思うが…」
「つまり…共テの対策はしなくていいって事ですか?」
「いや、それは違うな。一般なら倍率4倍さえ超えなければ足切りは発生しないが、去年の倍率は5.6倍。科学大の足切りがだいたい600点とされてるから、点数から見て英語上げれば問題ないと思う。」
「あ、え、は。」
情報が多すぎて頭が痛くなってきた。言葉につまり会話が下流のように右から左に流れていく。
「あぁすまん喋りすぎた。悪かった影井」
「一旦…持ち帰ってもいいですか…。学祭前ですし…」
「わかった。」
わかったと言いながら結局30分以上話すことになった。3者面談の時でもいいじゃないかと思いながら千鳥足でメイドカジノの大教室に戻る。もう頭痛い。保健室行ってもいいかな。
「おかえ〜さっちんどうしたそんなに顔やつれて」
「なんか先生に模試の結果で色々話してて」
「先生ハラスメント〜やだ〜よく頑張ったねぇ」
「あぁいえ違くて…化学オリンピック出てみないかって」
「まじ?さっちんが?すご」
「すみませんちょっと頭くらくらしてて…」
「ほら、乗って乗って」
「ん」
「うあもー」
「重いなら自分で歩きます歩けますから」
「嫌だよー私が持ってくもん。」
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