百合小説【第19話】うるさい鼓動か鳴り止まない。
「さっちー」
「…」
神楽坂駅から嘉陽田さんが手を振って出てきたきた。目を逸らしたくなったが、堪えてお辞儀で返した。これでも頑張った方だと思う。
「今日疲れたぁ」
そう言いながらわざと当たってきて私の隣を歩いた。
「…お疲れ様です。」
「今日さぁ、渋谷で週刊誌の撮影あったんだけどさ、よぅわからん人が『朝ドラ放送中止になって今どういう心境ですか』って。空気読めよこちとら撮影中だってのって、まぁ本人には言えないけどねぇ」
つまりは付け回されたということだろうか、経験は無いが既視感は最近感じる。目の前の人がその原因を作っている。
「大変でしたね」
「監督の作品結構あるらしいんだけど
携わったドラマとか映画とかが全部配信停止になるんだって…怖いよね」
「ですね…」
「ねー」
前も歌舞伎俳優が事件か不倫かで今回のようなことが騒動が起きて表舞台から去った。その後は知らないがし今まで収録されてきた映像たちは…
「朝ドラ…どうなるんですか」
「厳しいと思うよ〜なんせ監督だし、物的証拠があるからねぇ善悪は置いておいて」
「」
物的証拠、嘉陽田さんも被害者のうちの一人だ、どこまで致したのだろう…彼女はどうしてあの騒動が起きてもなお粛然としていられるのだろう。次は私が被害者なような気もする。こうやって連鎖するのだろうか。
「あの」
「?」
「話したいことがあって」
「公園行く?」
「ですね」
嘉陽田さんに公園までの道を黙々と案内する。
わざと体を当てに来て、スキンシップを取ろうとする。メールでその距離の近さを反省していると言ってた気がするのに、その素振りは一切として感じない。あしらうように手を動かして、これは結果的にじゃれ合っている気がする。住宅街を通り抜け一際大きな公園に着く。街路灯の光が公園を照らし、安心感を持たせてくれる。少し奥の光の当たらないベンチまで行こうとした。
「あの」
「下手クソ!ヘボいの打ってんじゃねぇよ坂下!蹴る位置覚えとけスクリューショットはなぁ!」
高校生…だろうか?フェンスを壁にしてサッカーボールを蹴っている。余程当てているのか、当てた部位に反って凹みが生まれている。閑静な住宅街に怒号が轟く。ムードがあろうと話そうと言える場所ではなくなっている。
「…場所」
「同じこと思った!変えようか」
「高校行っちゃう?」
「21時前ですよ」
「忘れ物忘れ物ぉ」
あからさまにわかりやすい嘘を吐く。使い分けだろうか、はそれはともかく先生に捕まるのが怖いので
「正門で待ってますね」
「中入ろうよぉ」
「嫌ですよ注意されたりするの」
「じゃあ」
「嫌です」
「まだ何も言ってないじゃん」
「」
多分家だ。だがあの一件があって以降は抵抗感しかない。1度しか入っていないのにラブホテルというような営みを育む部屋なんて認識がある。そうなると入ろうなんて思えない。
「けど話すとこなくない?絶対に何もしないから、ね」
「は、はぁ…」
絶対に何かしでかすなんて思いながら断れる訳もなく着いて行った。もっと強く言えるような人になれたら、今の現状は変わっていたのだろうか。嘉陽田さんの家まで歩いている途中、当てていた腕ではなく手を当ててアピールしてきた。身長差のせいで不自然なポージングで不格好に感じる。
「あからさまにアピールしないでくださいよ」
「だって繋ぎたいんだもん、とりゃ」
手が繋げないからか獲物を捕える鷲のように腕を回してきた。
「あぁもう分かりました」
諦めて手を繋ぐと、物足りないのか指を絡め始め恋人繋ぎをしてきた。手汗で温もりが直に伝わり不思議にも心地が良い。よほど嬉しいのか上機嫌になり繋いだ手を歩幅に合わせ大きく降り始めた。
「ふふん、そうだ何か買ってく?夜ご飯作り置き無くてねぇ」
「食べてきたんで大丈夫です」
「何食べたの?」
「パンケーキ」
「あぁこの間の」
もし話すだけならば、別に嘉陽田さんの家に行かずとも歩きながらでも話せる。遅くなるとママが心配するしこの間連絡を入れずに怒られたばかりである。
「今思ったんですけど…」
「んー?」
「話、歩きながらでも大丈夫ですか?」
「どうしよっかなー」
家に入れたいというようなことがわかりやすく表に出ている。下心丸出しでこういう所はわかりやすく正直だと思う。ただ信用という点においてはできるはずがない。
「…その」
「嘉陽田さんってそのす…私に抱いている好意って恋愛ですか?それとも友達としてですか?それと」
まだ話しかけだと言うのに繋いでない手で顔を隠し道端で口付けを交わされた。
「こういうことだよ」
「…わからないんですけど」
髪をかき分けて耳を触り始めた。隠したいのに手は離してくれず身動きは取れない。
「耳赤いよ?大丈夫?」
「…痒いです」
周りなんか気にせずこちらの目を見て話してくる。人が少なかろうが公道でこんなことは、と思いながら内心はそれどこれではなくなっていた。
「そうね、付き合いたいってことかな?」
「なんで疑問形なんですか?」
「付き合いたい」
訂正した、疑問形から連用形に変わる。戸惑いつつ、嬉しいと怖いが入り交じり、平常心が保てない。
「…なんで私なんですか」
「んー…そこが分からないんだよねぇー居心地いいからかなぁ」
「え…っと?」
そんなことを話している合間にも嘉陽田さんの家に着く。
「到着う」
話したいことが歩きながら済んでしまった。別に行かなくてもなんて思いつつ私の答えは話していない。このうるさい鼓動は収まらず、嘉陽田さんに連れられ家の中に入った。
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