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剣の魔獣は、宿の害虫害獣駆除をする

結果から記す。

その日、助けた少女が勝手に付いてきた。剣の魔獣であるザヴェルバロッグは宿に現れた鼠と虫を殺して呑んだ。





バラス地方の都市、ゴズ。

剣の魔獣であるザヴェルバロッグは、宿を取るはめになった。

剣であるが故、ザヴェルバロッグは寝る必要がない。

しかし宿を取らざるを得なかった。

雪原で助けた少女が、勝手に付いてきたからである。



「自由にしろと言われたので」



サヘルと名乗った少女が、悪びれずに言った。

助けた時の弱々しい雰囲気など、今はどこにもない。


仕方なく、ザヴェルバロッグは宿屋に入った。

さすがに少女を一人、道端で寝かせるわけにもいかない。

それぐらいの知識は、ザヴェルバロッグも持ち合わせていた。



「サヘル。己の集落に戻ればいい」


「戻れるはずがありません。どう説明すればいいのですか」


「魔獣はもういないと言えばいい」


「誰も信用しませんよ」


「何故だ」


「分からず屋がいるから、人間を魔物に捧げようって考える。そう思いません?」


「そうか」



とにもかくにも、サヘルは付いて来るという考えを変えるつもりはないようであった。

ザヴェルバロッグは面倒であったが、追い返そうとは思わなかった。

犬や猫が付いて来るのとさして変わらない。そう考えたからである。



「ここで寝ろ。我は外にいる」



宿の部屋に着くと、ザヴェルバロッグはサヘルを部屋へ押し込んだ。



「え?」


「ここで寝ろ。我は外にいる」


「あ、いえ、聞こえなかったわけじゃなく」


「なんだ」


「ザヴェルバさんもここで休みましょうよ」


「剣は寝なくてもよい」


「いえいえ、そうじゃなく。銅貨一枚も払ってない私がここで休んで、ザヴェルバさんが外に行くのは変ですよね」


「何故だ」


「何故って……とにかく変なのです」


「そうか」


「だからとりあえずザヴェルバさんもここにいてください」


「そうか。ならばそうしよう。あと、ザヴェルバロッグである」


「呼びにくいのですよね」


「そうか」



ザヴェルバロッグは眉根を寄せ、部屋に入る。

サヘルはザヴェルバロッグに礼を言って、部屋のベッドに腰かけた。

ザヴェルバロッグもまた、壁に凭れ掛かり、休んだ。



夜になり、暗くなり、静かになったころ。

突然、サヘルが叫んだ。

見ると、叫ぶサヘルの目の前に、虫がいた。

どうやら苦手であるらしい。


ザヴェルバロッグはすぐさま右腕を剣に変えた。

そうして虫を刺し殺し、吞み干した。



「……う、わ」



虫を吸収したザヴェルバロッグを見て、サヘルが頬を引き攣らせた。

しかし助けてもらったことに変わりないと、すぐに察する。

サヘルは頬を引き攣らせたまま、深々とザヴェルバロッグに礼を言った。



「良い。虫も、魔物も、人間も、大した違いはない」


「え、えええ……?」


「我はこれで強くなるし、この身を維持できる。言わば食事のようなものだ」


「……食事……、えええ、しょ、食事、かあ」



サヘルが顔をしかめた。

何やら言いたいことがあるらしい。

しかしそれ以上は何も言わず、再びベッドへ横になった。


ところがその後。

サヘルは間を置いて六度、叫び声をあげた。

虫だけでなく、鼠も苦手であるらしい。


仕方なしと。

ザヴェルバロッグは夜の間、部屋中の虫と鼠を駆除しつづけるのだった。

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