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 第95話 質問会 (1)

期末テスト前の3部合同会議は、予定通りの時間に始まった。


今回はいつものメンバーに歴研と郷土史研究会の幽霊部員も参加している。

この人達は小山内を見にきたわけじゃなくて、期末後にはすぐに夏休みが始まってしまうから、今日がきちんと調査の作業分担を決める最後の機会に近いからだ。

もちろん、来た奴らは小山内に会えて男女問わず喜んでるけどな。


そんなわけで歴研の部室の長机がさらに2本増えてかなり狭っ苦しくなってる。配置もいつものコの字じゃなく並行になってるしな。


俺はいつも同様小山内の右隣に座ったんだが、さすがに小山内と密着するわけにはいかず、俺たちの机は最初は俺たち2人だけで座ってた。

だが、集まってきた人が増えて、俺は席を真ん中にずらして、俺の右側に見慣れない2年生の先輩に座ってもらった。女子の先輩なら小山内の左側でもよかったんだが、男の先輩だったからな。自然とそうなった。

小山内も左端から動かなかったし。


会議が始まって、鳥羽先輩はその人たちを含めて手際よく話しを進めていく。


「手元に5枚綴じのプリントと見取り図がありますか?」


全員が頷く。


「日程はそこに書かれた通りです。補習期間とお盆と、ご協力いただく薮内さんの都合を合わせると、そこに書かれた日程しかなくなってしまいました。」


手元のプリントを見ると8月上旬の土日が調査日になっていて、盆明け直後の土日が予備日と書かれている。」


「そういうことですので、期末、絶対に赤点取らないでください。」


えーと、調査日と赤点にどういう関係があるんだ?

小山内の顔を盗み見ると、当然、というような顔をしてる。だが、歴研の1年生には俺と同じように面食らってる奴が何人か。お前ら、誰か理由を聞いてくれ。

だが鳥羽先輩は俺たち面食らい勢の戸惑いを見抜いたか先回りして解説してくれた。


「1年生の中には意味がわからない人もいると思うので説明すると、うちの学校の補習は3段階に分かれています。最初の全員参加の補習が夏休みに入ってから7月中ずっと、次に8月上旬に、期末で赤点だった人は強制参加になってる補習、8月下旬に、自由参加の補習、これは補習というより発展的なものって位置付けらしいけど、そういう補習があります。」


なるほど、赤点取るとその日程と調査の日程が重なるんだな?だが土日なんだから、補習は関係ないのでは?


俺と同じ疑問を持った奴がいて、同じことを質問した。


「土日には補習はないんだけど、その分たっぷり課題が出ます。月曜提出で、追試の点数が悪い時の救済用なので、絶対落とせないやつだよ。」


なるほど。

…やばいじゃん。


俺が暑さのせいではない汗をたらーっと流したのを目ざとく見つけたのか、小山内が小声で聞いてきた。


「あんたまさか?」

「一応中間は赤点なかったぞ。やばいのが3つほどあったが。」


あのな、言い訳させてもらうと、ここは進学校でお勉強できる奴らがきてる。俺は必死で半年間かけて受験勉強して入ったけど、余裕なんてあるはずがねえ。


「あんた、そんなに出来が悪かったの?」

「いや赤点はなかったんだって。」


だが小山内は俺を疑わしそうに見ている。


「あんたの言い方にすごく不安を覚えるわ。」


おそらくその不安は正しい。俺も不安だからだ。

だが、俺たちのひそひそ話しは鳥羽先輩が俺たちの方を見て口を閉ざしたので終わりになった。


「参加者はここにきている人以外に斉藤先生と薮内さん達、あと、今日は来ていませんが卒業生が運搬係で車を出してくれることになってます。」


手回しいいな。たしかにあの場所にいろいろ道具を持って行くんだったら車が欲しい。


「いろいろな人が動くので何かあった時は必ず私に連絡してください。プリントに私の連絡先を書いておいたので、今登録してください。」


そう言って鳥羽先輩は登録のための時間をとった。

もっとも俺と小山内はすでに登録済みなので、何もすることがない。


その時間を利用して小山内は不安を浮かべた表情でさっきの話を蒸し返してきた。


「正直に言って。どれくらいだったの?」

「中間テストは赤点プラス10点以内が3つ。ほかにもうちょっとだけマシなのが2つ。」


小山内は驚いて大きく目を見開く。


「それって、とても危険じゃないの!」

「ちゃんと試験勉強するから。」

「できるの?」


「できるの?」と言われて「大丈夫」と答えられるくらいなら中間テストでそんな点数はとってない、と言おうかとも思ったが、小山内に「バカなの?」と言われそうなので口にしない。

かわりに俺はこう言った。


「頑張るから。」


小山内の表情が全然晴れないどころか、さらに厳しくなった。


「中間テストは頑張らなかったの?」


ああ、そうくるのか。


「頑張った。俺なりに。」


決して嘘じゃない。まあ、「半年間必死で受験頑張ったから、ちょっとくらい手抜きでもいいか。」なんて思ったことは事実だが、それなりに頑張ったのも事実だ。


「あんたが赤点とって参加できないなんてなったら、薮内さんに失礼だし、私も…」


小山内は言葉を濁したが、俺的にはその「…」の部分をもう少し具体的に聞きたかった。


「とにかくあんた、今日から試験勉強を始めなさい。」


真剣な表情で小山内が俺に迫る。


「わかった。」


俺としては、もうちょっと後でもいいかと思ってたが、小山内の迫力に負けた。


「あんたの不得意な科目って何なの?」


そう小山内が俺に聞いてきたところで、みんなの登録作業と鳥羽先輩へのテスト送信が終わって、次の話題に移った。


掘る場所やその割り当て、撮影の仕方や何か出た時の処理とかの説明だから、ちゃんと聞いてプリントにメモしていく必要がある。なので俺の成績の話は一旦終わり。


そのあと、斉藤先生もやってきて、俺たちを城跡に乗せてってくれるのが斉藤先生と決まった。

まあ選べる立場じゃないのはわかってるんだが、それだけは勘弁してほしい。思わず小山内と顔を見合わせてしまったぞ。


斉藤先生は俺と小山内のすっげー微妙な顔を見て、小さく笑いながら付け加えてくれた。


「大丈夫だ。今回は運ばなくちゃならないものも多いから、前より大きな車に乗ってくるから。」


それ、荷物にスペース取られて、また俺が小山内にぽかぽかやられるってオチじゃないんだろうか?

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