表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/216

 第93話 表彰式 (2)

そんな感じで小山内が出発し、掃除も俺がゴミ捨てに行ってくるだけになった。


そんで、俺がゴミ捨てからのんびり戻ってくる時、小山内からショートメールがきた。

もちろん文面は予想通り、


「バカなの?」


の一言だ。


ただ、面と向かって言われないと、小山内がどんだけマジでそう言ってきたのかわからないので、返事を返せない。真面目な小山内だから、「掃除中にふざけるな!」って怒ってる可能性もあるしな。


小山内の「バカなの?」にはバリエーションがあることはさすがに俺でもわかるようになってきたんだが、それはいつもは小山内の表情でなんとなく小山内の気持ちを推測したんだ。けど、ショートメールだけだとそのあたりがわからん。

これコミュ達人でも無理ゲーなんじゃないのか?


俺が、「悪い。」と書いて消し、「すまん。」と書いて消し、「頑張ってこいよ!」と書いて消ししている間に、小山内からさらにショートメールが。


「あんたのバカを見たら、緊張してるのがバカらしくなったわ。」


バカバカ言うんじゃねえ、とは思ったが、小山内の緊張をほぐせたんだってことに気づいた。

だから俺は、


「おう。こんなのめったにない事だから楽しんでこい!」


って返してやった。



そのあと、家に帰って、俺は困った。

小山内に言った通り、録画しようと思ったんだが、こういう時どれを録画すればいいんだ?


最初に思いついたのは、ローカルでやってる夕方のニュースなんで、とりあえずこれは押さえとく。

うちの場合、同時に録画できる番組はあと一つだけだ。だが夕方はニュースが集中しててどれが小山内の勇姿を流すのか見当がつかない。


こんなに選択肢が多いのなら、小山内自身も録画に失敗するかもしれない。

もしかしたら小山内は俺が録画するって約束したのを信じて録画予約すらしてないかもしれない。


俺がザッピングしながら小山内のニュースが流れ始めたら録画ボタンを押すか?

だがそれだと見落としたり大事なところが映らなかったりするかもしれない。

なんか見落とさないようにする名案はないか?

…そんなの全チャンネルを録画するしかねえよな?

それ、録画機が何台あっても足りねえよ。


いや、あと2番組録画できるうちみたいなのが2台あれば可能か。

とはいえ借りてくることもできないし。


あとできることといえば。


そこで俺は、ある方法を思いついた。

だが、それは俺にとっては果てしなくハードルが高い。


うーん。


だんだん夕方のニュースの時間が近づいてくる。


むむむ。


そろそろギリギリだ。


小山内の残念そうな顔が脳裏にチラつく。


仕方ねえ。

スマホを取り出す。


「はい?」

「ええと、俺です。」

「はい、俺くんですね。」


おもいっきり緊張して、なんなら出てくれなくてもいいかもしれないとまで思いながら電話した相手は榎本さんだ。

ちなみにこのスマホで小山内以外の女子に電話するのはこれが初めてだったりする。


「ええと、もう家に帰ってる?」

「はい、さっき帰ってきました。」


ちょっと唾を飲んで頼み事を切り出す。


「ちょっとお願いしたいことがあるんだけど。」


人にものを頼む時ってこんな口調でいいんだっけか?

電話+女子相手+コミュ力不足で、俺は混乱した!


いやいや混乱してていい場合じゃない。頑張らねば。


「いいですよ。なんですか?」

「あのな、」


ああ、いつもの口調になっちゃったよ。もうこれで行くぞ。


「さっき小山内…さんが警察に行っただろ?」


何がおかしいのか、榎本さんは、「ふふふっ」っと笑いながら俺の頼み事を聞き入れてくれた。


あと、俺のスマホに登録されている電話番号は歴研関係の先輩を除けば小山内とホリーと伊賀だけだ。

SNSをやってないせいもあるだろうし、何より連絡先の交換が俺にはハードルが高い。

これは良くないのはわかってるんだが、どういうきっかけで持ち出したらいいか、わからね。


とにかく今頼めそうなのは、2人だけだ。

伊賀に頼むと間抜けな誤解を生みそうだから、残るはホリーのみ。頼む出てくれい。


「もしもし?」

「あ、テル、どうしたの?」


人気刑事ドラマの名バイプレイヤーの「ヒマか?」と言うセリフが突如思い浮かんだが、モノマネ上手のホリーにやるのは気が引ける。

なので速攻で頼み込もう。


「あのな、今日の表彰式な、きっとテレビ取材が入ってるはずだから、録画頼めないか?」

「小山内さんの表彰式?テル、小山内さんから録画頼まれたの?」


あー、そうか!頼まれてもないのに、こんな電話したら…ヤバいやつだぞ、俺。

気温のせいだけじゃなく、というか気温なんてなんの関係もなく、汗が噴き出してきた。


どうしたら誤魔化せるだろう?

1番簡単なのは、ここで、「そうだ。」と言って嘘をつくことだ。


その瞬間、何人もの声が重なるように「嘘つき君」と声をかけられた気がした。


俺は何を考えているんだ?ホリーは友達だぞ!

俺を信じてくれてる奴に嘘をつくのか?

しかも小山内のことで?


それに、なぜか知らないけど、小山内がこのことを知ったら、悲しい思いをする気がする。


正直に言おう。


「いや、頼まれてない。」

「そうか。テル、僕も録画する予定だったんだけど、どうしたらいいのか?」

「へ?」


俺は、間抜けな声をあげてしまった。


「僕はローカルチャンネルのニュースを予約してるんだけど、テルと被らないようにしないとね。」


おいホリーなんでそう軽く言えるんだ?

小山内のニュースを頼まれもしないのに録画するのか?


「テル、どうかしたの?」


俺が急に黙ったせいで、ホリーが不思議そうに聞いてきた。


「いや、ホリーも録画する予定だったのかと思ってな。」

「うん。クラスメイトの人気者の小山内さんが表彰されてテレビにも映るんだから、そりゃ録画するよ。小山内さんの友達の女子もクラスの男子も録り逃さないって、すっごい計画立てたみたいだよ。」


そうか。よく考えたらそうだよな。

俺、何を深刻に考えてたんだろ?

小山内のことになると、つい構えてしまうんだろうか?

…まあいいや。今は深く考えるよりもお願いが先だ。


そんな、俺的には一波乱があってようやく、準備完了。


あとは、まあニュース見るくらいか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ