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第10章 夏へのステップ 第92話 表彰式 (1)

そろそろ7月になろうかって時だ。


期末テスト前に、3部合同調査のことで小山内と打ち合わせておかないといけなかったから、いつもの藤棚でしばらく話してると、首筋の汗をペンギン柄のハンカチで拭いてた小山内がふと思い出したように言い出した。


「この前あなたに話したと思うんだけど、コンビニのときの表彰、あれ、今週の金曜日なの。」

「警察から表彰されるって話しだな?」

「そう。」

「警察署に行くのか?」

「ええ。店員さんと私の2人で行くそうよ。」

「小山内、前も言ったけど、2人の代表として、堂々と、胸を張って行ってきてくれ。」

「あんた、それわざと言ってる?」


小山内はそう言うと、俺の視線の先を確かめるように、俺の顔を無遠慮にじろじろ見た。


ちなみに今は本当にわざとざじゃなかったんだが、控えめだ。


俺は、一切、視線も表情も変えずに、即座に答えた。


「なにおだ?」


小山内は、ため息をついて軽く俺にデコピンしてきた。

これは言い訳できないから、甘んじて受けよう。ちょっと目は閉じてしまったがな。


「あんた、誤魔化しが下手ね。言葉が変になってる。」

「あー、まあ、言ってから気付いた。」

「私はあなたがどんな人か知ってるからそれを信じてあげるけど、クラスの女子は信じてくれないわよ。セクハラオヤジってあだ名を思い出してほしいの?」

「ああ。でも多分大丈夫だ。」

「何?なにかうまい言い訳でもあるの?」

「いや、俺がこんなに気を許して話しができる女子ってお前だけだから、あんなこと他の奴には言わないって。」


榎本さんと、あるいはもしかすると春田さんや竹内さんとも、普通に話しが出来ると思う。でも、それは小山内とは全然違う。

小山内とは、秘密を共有し合ったパートナーなんだから、もう何も隠すことはない、というか変に鎧をまとうことはしたくない。そんな気持ちなんだ。

だから、さっきみたいになってしまうわけだ。


おれがいろいろ思いを巡らしてる間に、小山内は顔を伏せてしまっていた。

あれ?

俺に特別扱いされるのは嫌だったか?


俺がそう思ったとたん。


「あんた、それわざと言ってる?」


今度は、感情を消すために押し殺したような声で、また小山内が同じことを聞いてきた。


「何をだ?」


いや、今度はほんとにどこを突っ込まれたのかわからない。


「ばか。」


なぜか小山内が言ったのはその一言だけだった。


あのあと、少しして調子が戻った小山内と表彰の話しに戻ったんだが、その日は、テレビや新聞の取材もあるそうだ。

「そりゃ、週刊誌とかに良くあるあおり文句的な『美女がお手柄』じゃなくて、誰が見たって正真正銘の美少女のお手柄なんだから、取材も来るだろう」といったら、今度はグーで腕を殴られた。

解せぬ。


とにかく、脱線しまくりの俺に、うがーっと怒った小山内が言いたかったのは、「ちゃんとテレビ見てなさいよ、できれば録画もしなさい。」ということだった。

そんなもん、言われなくても当然だろ。


あれ?まさか俺ストーカーっぽい?



金曜日になって、さすがの小山内も朝から落ち着かない様子だ。


朝のホームルームで担任の今井先生が、今日、小山内が表彰されるって話をしたから、ホームルーム終わりの僅かな時間ですら、小山内の周りは男女問わず人だかりになった。


「凛ちゃんすごい!」

「小山内さんかっこよすぎる!」

「凛ちゃん好き!」


もう大騒ぎだ。そのせいで、小山内もお手上げなのが見える。

ああ、最後の愛の告白は言わずと知れた河合さんな。


榎本さんの、いつもは効果抜群の交通整理も、この時ばかりはあんまり効かない。あわあわしてるぞ。

小山内と榎本さんを助けねば。


んー。考える。

ぼそっ。


「今日一限目の白石先生はなかなか入ってこない。絶対だ。」


その途端、白石先生が教室の引き戸を開けて入ってきた。


「どうしたの?授業始めるわよ。席に着きなさい。」


さすが先生。一瞬でみんなが散った。


「あ、小山内さん。おめでとう。あなたは学校の誇りよ!」


いや先生、アンタもかい!ベタすぎてみんなコケとるわ!


幸いお昼休みは、いつもの小山内カーストがガッチリガードしたおかげで、わざわざ他のクラスから覗きにきたやつも含めて近寄れたやつはいなかった。

もちろん俺もな。


俺がお手洗いから教室に戻る時、「な、可愛い子だろ。」とか言ってる上級生がいたから、噂が噂を呼んでる状態みたいだ。


小山内が、みんなから褒められるのは自分のことみたいに嬉しいけど、俺も近寄れなくなるんじゃないか。それだけが心配だ。

小山内に変な下心で寄ってくる奴は、小山内の中の人が綺麗に蹴散らすだろうから、そっちは心配してない。

……ただしイケメンは除く、ってのは小山内に限って、ないだろうし。

ないよな、小山内?


帰りのホームルームが終わった時、小山内は先生から呼ばれて掃除が免除ですぐにそのまま警察に送ってもらって行くことになった。


聞こえてきたんだから仕方ないだろ。


俺は、小山内に警察に行く前に声をかけたかったんだが、どうやらそのチャンスはなさそうだ。

小山内も俺をちらっと見た時、ちょっとだけだが寂しそうな顔をしていた…ように見えた。


いや、本当にチャンスはないのか?

うーん。

俺の当番の教室の掃除をしながら考えてたら、机を運ぶときに窓越しに、職員用昇降口の前で1人佇む小山内がちらっと見えた。


そういえば、斉藤先生の車に小山内と乗った時もあそこで待たされて、なぜか車を囲んでた奴らの中にクラスの奴らの姿はなかったのに、クラスの奴らの目撃証言で俺がセクハラオヤジにされたんだ。

そうか、こうやって目撃されたのか。


俺から見えるなら、小山内からも見えるはずだ。

でもどうすれば小山内に気づいてもらえるだろうか?

机を運びながら考える。でも何も思いつかない。

ラノベの主人公とかなら気の利いたことを思いつけるんだろうが、残念ながら俺は普通の高1だ。そうそう名案が出てくるわけもない。


こういう時は正面から声かけるか?

だが、クラスの奴に変に誤解されるかもしれない。

むむむ。


とりあえず、小山内が車に乗って行ってしまっては元も子もないので、俺は、自然なふうに窓に寄って行った。


まだ小山内はいるかな?

俺は窓から職員用昇降口の方を覗き込み、


いきなり、小山内と目があった。まるで、俺が姿を現すのを待ち受けていたんじゃないかと誤解してしまうくらい、ばっちりと目があった。

いや、これは想定外だったからどう声をかけたらいいのか、わからん。


ところがその途端、小山内はぱっと俺から視線を逸らす。綺麗な黒髪がぶわっと広がるって、どんだけの勢いだよ。


ちょっと待て、小山内。

そりゃないぜ。

あ、もしかしてこれは声をかけるなということか?


じゃ、声をかけずに…

俺に何ができる?


そう俺が考え始めたら、また小山内が顔を上げて、どうやらちょっと顔を赤くして慌てたような、それでいてほっとしたような表情で俺を見つめてる。


お前は何がしたいんだ?


俺の頭は??で一杯になりそうな勢いなんだが、こっちに走って来る車が視界の端っこに入った。

やばい、もう時間がないようだ。


とにかく小山内の緊張をほぐしてやらないと。


とっさに俺は、思いっきり左目でウィンクして大きくぺろっと舌を出してみせた。

ちょっとインパクト足りないか?

右腕をたたみ込んで右胸の前でサムズアップもおまけだ!どうだ?!


右目で小山内の表情を確認する。


あれはいつもの、呆れた、って表情だな。

だが、

我慢しきれずに口に手を当ててぷっと吹き出したぞ。

作戦成功!


ちょうどその時、小山内の前に車が停まり、小山内の姿が隠れた。

今井先生、でっかい車に乗ってんだ。

あれくらいの車に斉藤先生が乗っててくれたら俺がセクハラオヤジ扱いされることもなかったに違いないのにな。


俺がそんなふうに嘆いていたら後ろから呆れたような声が聞こえた。


「俺くん、そんなところでふざけてるんだったら、さっさとゴミを捨ててきて。」


声の主は、最近少しだけ当たりが柔らかくなった気がする渡部さんだった。

いつもホリーと喋ってる俺に刺すような視線を送って来ていた渡部さんが名前を呼んでくれるだけマシだろ?

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