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 第89話 一期一会 (2)

そのあと伊賀との話は茶道部とぜんぜん関係のない話に逸れていったんだが、俺はホリーがうまく部長さんを説得できるかの方に意識が向いてたもんだから、会話は弾まず。


「嘘つき君」脱却からまだ日の浅い俺にそこまでの会話スキルを求めるなって。


そうこうしてると、ホリーが教室に入ってきた。

思わず注目しちゃったよ。

俺と視線があったホリーは笑顔で近寄ってきた。

小山内の視線を右頬に感じながら、俺はホリーに声をかけた。


「いきなり朝から悪かったな。」

「ううん、ぜんぜん。」

「どうだった?」

「部長はオッケーだって。」


そう言ってホリーはニコッと笑った。


「部長から聞かれたんだけど、この前のお茶会もう一度きちんとした形でってことだよね。」

「ああ。一期一会ってのをせっかく教えてもらったのに悪いが、できれば部長さんの挨拶も副部長さんの説明も、大宮さんのお手前もひっくるめてもう一度だ。あ、大宮さんにもお願いしなきゃならないのか。」

「それは僕がするから大丈夫だよ。」


そう言いながらホリーは軽く首を傾げて何かを問いかけてくる。たぶん、俺が高居先輩のことまで口にしたからだろう。

余計なことを言ったかもしれないが、高居先輩が出てくれないと、小山内のプランは完成しない。


だが、それをホリーには言わない。あくまでも俺たちは、…何も知らない俺たちは、いいお茶碗でお茶をいただきたい、それだけだ。まあ多少…かなり図々しいかもしれないが。


その機会を茶道部の人たちがどう考えようと、俺たちは何もしない、というか、できない。

俺たちは、俺たちの考える「いい終わり方」を茶道部の人たちの想いを無視して押し付けることもないし、もし、茶道部の人たちが高居先輩をどうしても許さない、というのなら、それを俺たちが、超能力を使って捻じ曲げようとも思わない。

そういうことだ。


俺はそういうごちゃごちゃ考えたことを、「わかってくれ。」の一語に変換して、さらに視線だけでホリーに伝える。


我ながら無茶ぶりに過ぎると思うが、喋ると余計なことまで言いそうでな。


こういうあたり、小山内がきっと得意なんだけど、これは俺の仕事だ。


「じゃあ、ちゃんと決まったら、言うね。」


ホリーは俺に何も聞かずにもう一度ニコッと笑って話を終わらせて、それから伊賀に話しかけた。

伊賀は、俺たちの話が終わるまで待っててくれたんだが、おそらく俺が何かを企んでるってのは、さっきの会話からもバレてるだろう。


だが、何も言わずに黙っててくれた。


ホリー、伊賀、ありがとな。



朝早く登校してきたから朝のホームルームまでまだもう少し時間がある。

だから小山内に、簡単な中間報告のショートメールを送った。誰が持ち出したのか、ってのと、お茶会を部長さんがオッケー出してくれたってことだ。


送ってすぐに小山内から返事が着た。


「わかった。佐々木さんと渡部さんは?」


きっちり忘れてた。



昼休み、未だに俺は佐々木さん達にどうやって声をかけるか悩んでいた。

だが、腹が減ったから先に弁当だな。

いつものトリオで弁当箱を開ける。


「テル、朝から佐々木さん達もお茶会に誘いたいって言ってたけど。」

「ああ。この前はあの2人に悪いことしたからな。」


実際は、俺と小山内だけだったら、前と同じメンバーになってしまうので断られるかもしれないと考えたからだ。

早い話がダシになってもらったんだが、佐々木さんと渡部さんにとってもいい話だと思う。


「佐々木さんと渡部さんは、僕から誘うね。」

「いいのか?」

「だって茶道部のお茶会なんだから、テルが誘うのは変でしょ。」

「それは確かに変だなあ。」


伊賀もうんうん頷きながらそう言う。

事情をよく知らない伊賀が何でそう言うのか疑問だが、ホリーの言うことは正論だ。


「それにそんなことしたらテルが大変だよ?」


ホリーが訳のわからないことを言い出す。

伊賀もさっきより大ぶりに頷きながら「そうそうそれそれ。」とか言ってる。


何だ?何で俺が大変なことになる?


ホリーがブロッコリーをもきゅもきゅ食べながら小声で聞いてきた。


「テル、小山内さんの玉子焼きは美味しかった?」

「ああ、とっても…」


顔がいきなり熱くなってるぞ。

いやわかってる。

赤面してるだけだ。


だが小山内の名誉のために言っておかねば。

特にニヤッとしてる伊賀が盛大に誤解してそうだからな。

俺は小声だが力強く無実を訴える。


「あのな、小山内がくれたのは…」

「くれたのは?」


ホリーと伊賀がハモる。


「くれたのは…」


やばい。説明のしようがない。


俺の超能力のことはもちろん、茶道部のことで小山内と2人で何とかしようとしてることすら言えない。あくまで名目は中世史研の活動で、俺と小山内は部長と部員の関係を1ミリも超えてない、ってことになってるからだ。

実際は人助けのパートナーなんだが、それだって小山内手作りの玉子焼きをもらえるような関係のはずがない。


2人は興味深々の顔で俺の説明を待ってやがる。

これ、誤魔化したら絶対にまずい流れだ。

どうすんだよ俺。


苦し紛れに小山内の方を見る。

小山内は俺の苦境、いや俺たちの苦境に全く気付かず、いつもの女子と楽しそうに弁当を食べてる。


あ、前に小山内が玉子焼きを女子にあげたときはおねだりされてたんだっけ。


というか、俺も口に出してはいないけど、欲しそうな顔をしてたのに小山内が気づいたのかもしれない。


俺が欲しがったからくれた。


そうか、これだ。


あの時の小山内の表情が、これで全て説明がつくとは思ってないし、思いたくないが。


「俺が、欲しそうにしてたらくれたんだよ。」

「それだけ?」

「それだけって他に何があるって言うんだ?」

「まあまあテル。テル以外に小山内さんから玉子焼きをもらえる男子っていると思う?」


ホリーが突っ込んでくる。


「そりゃ小山内…さんは優しいから頼めばもらうだろ。」

「本当にそう思ってる?」


伊賀も突っ込んでくる。

突っ込みの2chサラウンドって並の芸人ならさばけないぞ。

その時すごい名案がいきなり閃いた!


「小山内の部活の部員だからくれたんだろ。もういいじゃないか。」


わざとちょっとキレ気味に言ってみる。

まあばれてるだろうが、話題は変わるだろ?

さっきの話題に戻そう。


「そんなことより、なんで俺が佐々木さん達を誘ったら大変になるんだよ。」


答えは、2人の呆れ顔だった。

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