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 第86話 お茶碗の行方 (4)

俺たちには考えつけなかった、榎本さんのコロンブスの卵発想で、一気に気分が楽になった。


俺は、小山内と榎本さんに、


「じゃ、超能力を使うぞ。」


と声をかけて、早速みんなの前で超能力を使う。


小山内と榎本さんは息を詰めて俺を見守ってくれる。

俺は、頭の中で、何度か、唱える言葉を繰り返し、間違いがないかを確かめて言葉にした。


「英堂館高校の茶道部の部室から最近行方不明になったお茶碗は、明日も行方不明のままだ。絶対。そのお茶碗が見つかった時、お茶碗は壊れている。間違いない。」


お茶碗が戻ってきても、割れていたりしたら、きっと、責めたり責められたりする人がいる。だから後半を付け足した。


いつも通り、超能力を使ってもなんのエフェクトもないので、明日、もしかしたら明後日にならないと、俺の超能力が効いたかどうかわからない。


このあたり、漫画とかラノベだと、エフェクトがあったり、情報通の謎の友人がなぜか欲しい情報をすぐに届けてくれたりするもんだが、現実はそう便利に出来ていない。

というわけで、俺の早起き登校はまだ続く。


翌朝はまだ動きが無いと思うから、いつもどおりのギリギリ登校をしようと思ったんだが、夜、小山内から、「早く来い」というショートメールが来たから、早起き登校になってしまった。

実際はもうちょっと優しい言い方だったけど、言ってる内容は変わらない。


まあ、小山内の気持ちはわかるし、ということで翌日も早起き登校をした。



教室に入ると、ホリーはもう来ていた。

あれ?この前ホリーと昇降口で一緒になった時と同じ電車で俺は来たんだが。

ホリーはさらに速い電車で来たってことか?


「おはようテル。」

「おはようホリー。」


いつもどおりの挨拶をして、俺は席に着いた。

伊賀はまだ来てなかったから、今ホリーはフリーだ。


「ホリー、えらく早いんだな。」

「うん。昨日、部長からちょっと早く来てってSNSのグループで連絡があったんだよ。」


まさかもう動きがあったのか?


「何かあったのか?」

「うん。お茶碗が見つかったって。」


一瞬にして緊張する。

まだ小山内は来てないから、聞き漏らしがないようにしないと。


「よかったじゃないか。やっぱり見落としだったのか?」

「違うみたい。昨日の夕方、学校にどこかのお店の人から連絡があったんだって。」


それは、やっぱり…


その時、小山内が、クラスの女子と喋りながら教室に入ってきた。


俺はホリーの方を向いてたんだが、小山内の「おはよう。」の声で気づいた。

俺に早く来いって言っておいて俺より遅いってなんだよ、と思ったが、そんなことよりもっと大事なことがある。


「おはよう小山内さん。」


ホリーが小山内に声をかけた。


これ、チャンスか?


俺も小山内に挨拶を返しながら、小山内に、こっちに来てくれと目力通信を送る。ついでに小さく手招きも。


小山内は、普段登校してきても、個別に挨拶はしない俺が小山内に声をかけたことに面食らったのか、目をぱちくりさせたが、何とか俺の意図に気がついてくれたらしい。


どういう理由でこっちに近寄ろうか、みたいな顔をした。

まあ、俺と小山内は教室内では、同じ部活だけど親しくはない、というイメージをみんなに持ってもらうようにしてるから、わざわざこっちにくるのに理由が欲しいんだろう。俺から声をかけようか。


なんて事を考えてたら、ホリーがなんの躊躇いもなく小山内に、「小山内さん、ちょっといい?」と声をかけた。


渡りに船のような格好になったから、俺は助かるが、主に佐々木さんと渡部さん的に小山内がやばいのでは?

あの2人たぶんホリーに声をかけたくてもう来てるし。

だが。


「堀くん、何かしら?」


小山内は俺の心配する事なんてなんの躊躇いの理由にもならない、みたいに堂々とこっちにやってきた。

まあ俺が手招きしたからなんだが。大丈夫だろうか?


「来たばかりなのにごめんね。」


ホリーは申し訳なさそうな顔をして軽く頭を下げた。


「いいわよ。それより何かしら?」

「うん、今テル、ええと俺君にも言ったんだけど、あの時のお茶碗が見つかったんだ。いろいろ心配してくれてありがとう。」


俺がホリーから話しを聞いたのが小山内と一緒に心配してたからだってことが、ホリーにはバレてたのか?!


驚きが顔に出ないように何とかするのに苦労した。

そこいくと小山内はさすがだ。ぜんぜん顔に出ない。しかも自然に知りたいことに話題を向けることまでした。


「そうほんとによかったわ。どこにあったの?」

「ええと、それが。」


ホリーはためらいを見せた。

それを敏感に察した小山内は、無理に追いかけない。


「ごめんなさい、話せないこともあるわよね。」


おそらく俺たちの予想が当たってれば、話したくないだろうし、もしかすると、ホリーも詳しく聞いてないのかもしれないからな。


だがホリーはちょっと目が泳いだが、わざわざ小山内に自分から声をかけたのに、誤魔化してしまうってのもどうか、と思ったらしい。


「ごめんね。僕もあんまり知らないんだけど、昨日、リサイクルショップのお店の人から連絡があったんだって。」


ホリーの話によると、そのお店にお茶碗が2つ持ち込まれて、買い取って欲しいと言われたそうだ。


そのお茶碗の箱には、両方とも俺たちの学校のOGが茶道部に贈るってことが書いてあった。それだと茶道部の備品になるはずで、本来ならその処分は先生が行うはずなのに、持ち込んだのがうちの学校の制服を着た女子だったのでお店のオーナーさんが不審に思ったそうだ。


偶然、持ち込んだ生徒にとっては運悪く、だろうがそのリサイクルショップのオーナーさんの子供が英堂館高校の生徒だった。

だから、そのオーナーさんから昨日の夕方に学校に連絡があり、行方不明になってたお茶碗だとわかったという流れだそうだ。


そこまで話して、ホリーは話を一旦途切れさせた。


それから、いつも朗らかなホリーからは想像もつかないような苦渋の顔になった。


「朝から部長がその話をしてくれて、もうお茶碗が見つかったから、もうこの話はお終いだって言ったんだ。けど。」


けど?


「堀くん大丈夫?もういいわ。ごめんなさい。」

「うん、いいんだ。大丈夫。」

「ホリー、ごめんな。辛いことを話させてしまって。」

「うん。」


そう言ってホリーは俯いてしまった。

これが俺が超能力を使った結果なのか。

絶対にホリーの笑顔を取り戻さなければ。


そのためには…俺はいったいどうしたらいいんだろうか?


俺は自分の席に戻っていく小山内の姿を目で追った。

席についた小山内は、俺に視線を向け、しっかりと頷いた。


そうだ。俺たちは、だったな。

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