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 第84話 お茶碗の行方 (2)

今日は、どんよりとした曇りだったが、雨は降りそうになかったので、小山内と相談していつもの藤棚に向かった。

幸い、そういう微妙な天気のおかげか、藤棚には誰もいない。

小山内と俺は、まずは持ってきた弁当を広げた。


特に理由はなかったが、つい小山内の弁当に目がいってしまう。そういえば、小山内は前に誰かから聞かれて自分で弁当を作ってるって言ってたな。

彩りもきちんと工夫が凝らされてるみたいで、かわいいお弁当だな。

片隅に黄色いふわふわそうな…

あっ、あれが、有名な小山内の卵焼きか。


一時期小山内から卵焼きをもらうのが小山内の周りにいる女子の間で流行ってた。

確かに黄色が映えててふわふわで美味しそうだな。


俺の視線に気付いた小山内が、いつもと同じような声で聞いてきた。


「欲しいの?」

「いや、美味そうだなと思って。」

「ふーん。」


ちょっと小山内は嬉しそうだ。


「くれるのか?」

「あんたの報告次第ね。」


小山内は俺を見て、いたずらっこのような表情で言う。

これは頑張らねば。


俺は箸を止めて、


「ホリーの話しによると、お茶碗は、俺たちが帰った後にも探したそうだが、やっぱり見つからなかったらしい…」


さっきホリーから聞いた話をそのまま小山内に伝える。


「俺は、その部長さんの、金曜日にもう一度探しましょう、というのはそれまでに心当たりのある奴は戻せ、っていう意味だと思う。」


小山内も考えながら同意した。


「私もそう思う。さっきの話しだと、お茶碗を持ち出すことが出来たのは部員だけだと部長さんも思ってて、できれば誰も傷つかない方法でって考えてるのかも。もしかしたら、何かの理由で家に持って帰ってまた持ってくるのを忘れたり、とかいうこともあるって考えてるのかもね。」


そうだろうな。

だが、理由があって家に持って帰って、その後持ってくるのを忘れた、というのなら、騒ぎになった時に、そう言えば良かった、とも思う。

あの日のお茶会に使うっていうことで言い出しにくかったのかも知れないが。


「そういうことだから、部長さんの気持ちどおりに金曜日までに戻す、って方向で超能力を使う方法と、金曜日までに様子を見るって方法と両方あると思うんだが、小山内はどう思う?」

「そうねえ、うーん。」


小山内は、箸を止めて考え込んだ。

小山内が箸を止めてるのに、俺だけばくばく食うのも悪い気がして、俺も箸を止めて考えた。

「あんたモテないでしょ。」ってまた言われたくないしな。


「たとえば、あなたが、『茶道部のお茶碗は金曜日までなくなったままだ。』って言ったとするわね。」

「ああ。」

「その場合は、自分で戻すときもあれば、持ち出したのがばれて大事になって戻ってくる、って可能性もあるのよね。」

「そうだな。今までの経験からすると、戻り方を指定しない限りそうなると思う。」

「じゃ、『茶道部のお茶碗は金曜日までなくなったままだ。茶碗を持ち出した人が誰かを1人以上の茶道部員が知ってしまう。』ってやったらどうなるの?」

「持ち出したのが茶道部員なら、後半は2人以上にした方がいいと思う。だが、それだったら、誰がやったのかは茶道部員にはわからないだろうな。ただ…」


俺は一旦言葉を切って小山内を見た。


「もし、持ち出した人が、誰かを傷つけようとか、茶道部に酷いことをしてやろうとか、そういうことを考えて持ち出して、それを反省し戻したとしても、それを自分で告白することも出来なくなってしまうな。」

「あんたもちゃんと考えてるのね。」

「なんだよその言い方は。」


俺たち2人は笑い合ったが、お互い心からの笑いじゃない気がする。


「これ、部長さんが最後のチャンスを与えているんだし、まだ、俺たちが手出ししない方がいいのかもしれない。」

「私もそんな気がするわ。」


金曜日に戻ってくれば、部員の人たちも、もしかして間違って持って帰ったのを言い出せなかった、と思ってくれるかも知れないし、持ち出した人が告白したら許してくれるかも知れない。

そのための部長さんの連絡だろうし。


というわけで、俺たちは、とりあえず週明けにホリーに金曜日どうだったかを聞くことにした。


その後は、中世史研の話で、夏休みの合同調査の話に。

当日、薮内さん親子も立ち会うことになったのでできれば日程を土日にして欲しいと連絡があったのでその話と、歴研と郷土史研の幽霊部員が、力仕事と聞いて何人か参加してくれそうだ、って話。

鳥羽先輩は、「小山内が参加すると聞いて参加を申し出た人が一番多そうだけど。」と笑ってたってことは小山内には秘密だ。


さて。

気になる小山内の卵焼きの行方だが。


「今回の出来だと、一個全部は無理ね。」


と、いい感じの笑顔で、小山内は自分の弁当箱に1つだけ残してあった卵焼きを半分に切って、半分を俺の弁当箱の蓋に載せ、残った半分を自分の口にほりこんだ。幸せそうにもぐもぐする小山内を見ながら俺も一口。


甘くてふわふわで美味しい卵焼きだったぞ。

うらやましいだろ。


次は1個丸ごともらえるように頑張ろう。



次の月曜日。

月曜日は朝早起きするのが辛いんだが、ホリーから話を聞きたいんで前回よりさらに早起きして登校した。


その時間だと、ちょうど昇降口でホリーに出会えたんで、挨拶したあと早速教室に向かいながら世間話みたいな感じで聞いてみる。


「お茶碗見つかったのか?」

「ううん、見つからなかった。誰かが持ち出しちゃったのかって話になってるんだ。」


ホリーは表情を曇らせながら教えてくれた。

やっぱりそういう話になるよな。


「そうか。誰も心当たりがないって言ってるのか?」

「うん。そうなんだよ。それで副部長の高居先輩が、最後にお茶碗を触った大宮さんに、ちょっときつく言っちゃって。高居先輩は、部長の次に説明した人。覚えてる?」

「ああ。ちょっと目がきつめの。」

「うん。大宮さんは僕の次にお茶を点てた子。」


ああ新入生の。

先輩から責められたら辛かっただろうな。


「部長が高居先輩を止めたんだけど、大事な先輩達のお茶碗だから、無くなったではすまない、って。」


代々の部員の想いがこもったお茶碗なら、代わりのものを買っておしまいってわけにもいかないんだろう。


「せっかくお茶会に来てくれたのに、後味悪くさせちゃってごめん。」

「いや、俺こそいろいろ聞いて悪かった。」


すまんホリー。おまえもあんまり言いたくないことだろうに。


だがこのままだと茶道部の空気はどんどん悪くなってくんだろう。

せっかくホリーが一生懸命になっている部活がそんなふうになってほしくはない。


まあ一宿一飯の恩義もあるしな。

俺にできることはするぜ。

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