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 第83話 お茶碗の行方 (1)

翌朝。


いつもチャイムギリギリの俺とちがって、ホリーはかなり余裕をもって登校してるらしい。前に誰かがそんなことを言ってたのを聞いたことがある。

なので、俺はいつもより早めに登校した。

もちろん、ホリーに昨日のお礼を言うのと、それとなく話を聞くためだ。

それとなくな。


だが、いつもより早く来たはずの俺より、ホリーはさらに早く来いて、俺の席に座った伊賀と喋っていた。

伊賀の背後から俺が近づくのに気付いたホリーは、少し驚いたような表情を浮かべたが、ごく普通に挨拶してきた。


「おはよ。」

「おはようテル。今日はいつもより早いんだね。昨日はどうもありがとう。」

「いやこっちこそ、一期一会の美味しいお菓子とお茶をありがとう。小山内も喜んでたぞ。」


ホリーはその俺の言葉を聞いてにっこりした。

ホリーから、お茶席では一期一会が大事って聞いたので、使ってみた。

俺がちゃんと意味をわかってるかどうかは、お前らが俺の今の言葉から推測してくれ。


そこから伊賀も交えてしばらくはお茶会話になった。伊賀もいるし、あっちの話は切り出しにくいんだよな。

それとなく小山内の方を見ると、「しょうがないわね。」って顔をしてる。

だよな。


もうちょっとだけ時間を使おう。


そう思った時、


「悪い伊賀、ちょっと今日の宿題のところ教えてくれないか?」


そう言って近寄ってきたのは卓球部の佐村だ。憶えてるか?あの肉壁軍団の副隊長。

今では、なぜか俺に絡んでこない。


「おう、テル。お前昨日小山内さんとお茶会デートだったんだって?」


絡んでは来ないが、余計なことは言いやがる。しかも、悪気がなさそうなところが始末に負えねえ。


ガン!

なんか椅子を無理やり引いて後ろの机にぶち当たったような音がした。


河合さんだ。


髪に半分隠れた眼が爛々と輝いて、佐村を睨みつけている。

手には何故か物差しがナイフみたいに握られていて、ってナイフとして使う気か?!


普段の殺気は俺にしか向けられていないので、佐村は河合の手にかかって己の命がもうすぐ尽きることに全く気付いてない。


小山内も佐村の言葉に怒ったみたいで止めようともしない。


「デートじゃねえ。俺なんか相手にされてねえよ。」


畜生。

悔しいけど、佐村の命には引き換えられない。ついでに俺の命にも。

まあ、事実だから、そう言うしかないんだが。


俺の言葉で河合さんの瞳から血の色がすっと消え、虚無の表情でまた席に着いた。


小山内、おまえこれから先誰かと付き合ったら、最初の仕事は河井さんの説得だぜ。


とか余計なことを思って小山内の表情を窺ったら、小山内はますますお怒りのご様子。


そうだよ。ホリーから話を聞かなきゃならないのに余計な時間を使わせるんじゃねえ。


だいたいこいつ、自分も小山内に相手にされてないのがわかったら、さっさと女子卓球部の1組の女子とつきあい始めたって聞いたぞ。


だからなんだって?


だから…ああ、いいなあってことだよ。


まあ今はいいや。ホリー優先だ。


佐村は、とりあえず、伊賀を連れ出してくれたことに免じて今日だけは許してやる。

今日だけだぞ。


「テル、そうは言うけどね、テルと小山内さんは仲よさそうに見えたよ。」


ホリーは、小声で囁いてきた。

河合さんのさっきの殺気に気づいたようだ。


「それな、言わないほうがいい。小山内が怒るし。まあ、そんな噂が立ったら小山内に彼氏ができなくなるからな。」


小山内はこれから高校生活を、人生を楽しん嬉しいことをいっぱい見つけていかなきゃならない。だからな。


俺の胸がどれだけちくっとしようとも、俺はあの時小山内にかけた言葉を守忘れちゃいけないんだよ。


ただ、ホリーが小声で話しかけてくれたのはチャンスだ。


「そういえばホリー、行方不明のお茶碗は見つかったのか?」

「それがね…」


ホリーによると、あのお茶会の後、もう一度部員全員で隅々まで探して見たがなかったそうだ。

顧問の先生にも聞いてみたが、前回茶道部が使ってから部外者は誰も和室には入ってない筈だし、自分も知らないということだったらしい。


朝からSNSのグループで部長から、「また次の部活の時に探しましょう」という連絡があったそうだ。


「あれだけ探したのにはまた次の部活で探しても見つからないんじゃないかなあ。」


ホリーはそう言ってるが、俺はその連絡の意図がなんとなくわかった。

状況から考えて部員しか持ち出せない以上、その部長からの連絡は持ち出した人に次の部活までに戻してくれって言ってるんだ。


「そうか。見つかるといいな。」

「うん、ありがとう。」

「そのお茶碗て、茶道部のものかどうかってのはどうやったら見分けがつくんだ?」

「お茶碗自体の形とか絵柄もそうなんだけど、お茶碗を入れてる箱に、誰がお茶碗を茶道部に寄贈してくれたか書いてあるんだ。それでわかるよ。」

「そうか。じゃ俺ももしどこかで見たら教えるな。」

「お願い。あのお茶碗でお茶を点てることになってた子が、私がどこかに置き忘れたのかもってすごい落ち込んじゃってるんだ。だから見つけてくれたら嬉しいよ。」


そういうことなら、なんとか見つけたいけど、まずは次の茶道部の活動日待ちだな。

そうだ、次の茶道部の活動日はいつなんだろ?


「金曜日だよ。毎週火曜日と金曜日。」


そこまで聞いたところでチャイムが鳴って、なぜか今井先生がいつになく早く教室に入ってきてしまった。



お昼休みが始まるまで待って、俺はざわつく教室の中で小山内に近寄り声をかけた。


「小山内さん、次の3部合同会議までに詰めおかなきゃならないことがあるから、いつもの場所に来てくれるか?」


小山内は弁当を取り出して、いつもの小山内カーストの女子とランチタイムしようとしてたみたいだが、俺はさっきのホリーの話を早く伝えたかったんで思い切って言ってみた。次の茶道部活動日の金曜日まで時間がないし。


小山内は、俺の顔と、自分の弁当とそれに竹内さんたちの顔をかわるがわるフラットな表情で見て、「わかったわ。会議まで時間がないものね。ごめんなさい、今日は一緒できないわ。」と言って弁当を持って席を立った。

そうか弁当持参でってことになるのか。たしかにすぐ終わらないかもしれない。


俺も慌てて自分の席に弁当を取りに戻る。途中で河合さんが俺を睨み上げてきたが、とりあえず、「ごめん」とだけ言って躱した。


俺は、その様子を見ていたホリーと伊賀に「ちょっと今日は用事があって、今日は別の場所で弁当食うことになった。」と断って、また小山内のところに戻った。

ホリーも伊賀もなぜか、ニヤニヤしてやがったが、なぜだ?


ただ、お手洗いから手をふきながら戻ってきた青木が、2人で弁当を持って教室を出る俺たちを見て目を剥いてたんで、少し満足はした。

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