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 第77話 サポーター (2)

小山内が待っているカフェは前と同じように落ち着いた佇まいだった。

小山内に脅されて…あー、誘われて、初めて来た時よりちょっと精神的に余裕があるのか、三角屋根のそのカフェは店内が前より明るく見える。


「あんたバカなの?前より日が長くなったからに決まってるでしょう。」

「そうともいう。」

「いいから早く座りなさい。」

「へいへい。」


小山内はたぶん前と同じ席に前と同じように入り口に背を向けて座っていた。


ちなみにさっきの会話はテレパシーじゃないからな。

小山内の席に近づきながら独り言で「明るく見えるな。」のところだけ口にしたら、それが聞こえた小山内に突っ込まれただけだ。

精神的に、ってとこが聞こえてたら、もっと鋭い突っ込みが来てただろう。


前と同じように俺が席に着くと、店員のお姉さんがお水を持ってきてくれた。小山内の前にもまだお水だけ。あとメニュー。


しまった。前とおんなじように「待った?」ってデートっぽいセリフを言ってみようと思ってたのに、先制攻撃を受けたせいで、忘れてた。


「遅かったわね。」

「悪い。榎本さんから声をかけられて。」

「ユリちゃんから?」

「そうだ。そういえば、なぜか榎本さんは俺が小山内に呼び出されたのを知ってたけど、何でだ?」

「えっ?あっ!」


小山内はいかにも「しまった!」てな顔をする。

何かしらないが、小山内は大事なことを忘れてやがったな。

ジト目で見てやる。

じー。


小山内はテーブルに置いてあったメニューを持ち上げ、まるで興味深い読み物ででもあるかのように自分の顔の前に大きく広げた。


「と、とりあえず、先に注文しないと店員さんに悪いわよ。あんたが遅れてくるからずっと待ってもらってたんだから。」


ほほう。

そういう態度をとりますか。

だったら俺は。


「じーーーーー」


声に出して言ってやる。


メニューの端から見える小山内の頬に、汗が一筋。

だが、まだ頑張る小山内。


「あのな、そういうふうにメニューを見られると、俺はいつまで経っても注文できなくなるんだが。」

「だったら、私と同じって言えばいいじゃない。あんた前も私と同じの注文したんだから。」


「おっと!小山内選手、見事に相手の隙をついた攻撃です!」と俺の脳内実況が叫んだ。

小山内、お前よく覚えてたな。

さすが、ギフトに近い能力の持ち主。


だったらこれでどうだ。


「まあそれでいいけど、お前カフェオレ来てもその状態続けるわけ?」


あ、耳が赤くなった。

手がぷるぷる震えて、

パタンとメニューが倒れた。顔を俺から背けた小山内がその影から現れる


「わかったわよ。後でちゃんと話すから。」


「第1ラウンドは俺選手華麗に勝ちを決めました!」


脳内実況もういいって。

いつまでも話が進まん。なんだよこの青春みたいなじゃれあい。


とりあえず店員さんが困ってるので、やっぱり俺たちはカフェオレを注文。


「で、俺をここまで呼び出した理由は?」


その言葉に小山内はようやく俺を正面から見て、真剣な眼差しになる。


「さっき、あんたも私の話を聞いてたわよね?」

「教室で言ってた、警察から表彰されるとかって話か?」


俺には、ガールズトークを俺が耳をそば立てて聞いてたなんて言いがかりを言われてる気がした。

だが、それを言い出したらまた話が逸れていくし、小山内の真剣な表情を見る限り、今それを言っていい時じゃないことくらい俺にもわかる。

なので、後で女子の話を聞いててキモっとか言われないように、できる限りさらっと流す。


「そうなの。どうしよう?」

「小山内が一生懸命頑張って、それをわかってくれた人に表彰されるんだからいいじゃないか?」


あ、また綺麗な黒髪の間からちょっとだけ覗いてる耳たぶが赤くなった。


「あ、あれは私だけが頑張ったんじゃなくて。」

「だから店員さんも一緒に表彰されるって言ってなかったっけ。」

「私が言いたいのはそこじゃない。あんたもしかしてわかって言ってるの?」

「何を?」


ほんと何を俺がわかってるんだ?

俺のそのきょとんとした表情に小山内は気づいて、はあーと深いため息をついた。


「あんたってバカだけじゃなくて鈍感さも人一倍ね。」


こいつ何を言ってるんだろう?


「本当にわからないの?」


小山内はなぜか不安そうで寂しそうな顔をした。

あ、これはもしかして。


「あれか?俺とお前のチームでおばあちゃんを救ったって話か?」

「そうよ。当たり前でしょ。」


当たり前という割には小山内はほっとしたような表情を浮かべている。うん。今日も小山内はかわいい。


いやそういうことじゃなくてだな。


「小山内の頑張りと俺の超能力で救った、そりゃそうなんだろうけど、俺の超能力のことを公表するわけにいかない。」

「そうよ。だから私も。」

「いや、小山内は、最初俺とは関係なくおばあちゃんを助けに入ってるし、小山内がいなければおばあちゃんがお金を取られてたのは間違いないから、堂々と胸を張って表彰されればいいと思うぞ。」


そこで店員さんが俺たちのカフェオレを運んできてくれたから、一休み。


小山内はまだ納得していないようだ。

両肘をついた姿勢でガムシロの蓋をめくりながら、はーっとため息をつく。

小山内は誇り高いやつのくせに自己評価が低いところがあるから、自分が表彰されるってことを納得しにくいのだろうか?


それとももしかして?


「もしかして小山内は、俺が前に言ったことが気になってるのか?」

「え?」


今度はきょとんとしたのは小山内の番だった。


「ほら、初めて薮内さん地に行くときに話してた…」

「私だけが目立つと、ってことね。それもあるわ。でも、そっちはあんまり気になってないの。」


そう言いながら小山内はカフェオレに手を伸ばしてストローでくるくるかき混ぜた。


「なぜだ?」

「私は犯罪組織の犯行を成功の寸前で潰したわけよね?」

「そうだな。」

「それなら、警察の人に、取材の人が来ても犯罪組織が怖いから私とわからないようにして欲しいってお願いすれば大丈夫だと思うの。」

「そうだな、別に名前出したり顔を写されたりしなかったら誰にもわからないよな。」

「そうなの。だからそっちは心配してないわ。」


ということは、俺たちのチームの勝利なのに自分だけが表彰されるってところがもやっとしてるってことか。


「なら、小山内が俺たちのチームの代表として表彰されてきてくれ。」

「それは…」

「何もそう口に出してくれって言ってるわけじゃない。小山内がそういう気持ちで行ってくれたら、俺も一緒にそこにいるのと同じだろ。」


小山内はそういう俺を俺を大きな瞳で見つめる。何かの感情が込められてるんだが、今まで俺に向けられたことのない感情みたいで、それがなんなのかよくわからん。嘘つき君相手にこんな見つめ方してきた奴はいなかった。


「俺たちはパートナーなんだろ?」

「うん。」

「だったら小山内が表彰されたら俺が表彰されたのと同じだ。小山内が嬉しいことは俺にとっても嬉しいことだ。俺たちチームの代表として行ってきてくれ。」


小山内はもう一度俺をさっきの表情、というよりさっきの感情がより強く出てる表情で俺を見つめたあと


「わかったわ。行ってくる。」


と言ってくれた。


それから小山内は斜め上の天井に視線を逸らして、手でわざとらしくパタパタ仰ぎながら。


「なんか暑いわね。」


と呟いた。

それでも顔が赤くなってるのは隠せてないけどな。

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