第75話 再訪 (5)
その直後に謎は解けた。
武光さんが、なぜか俺の顔を見ながらまるで俺に救いの手を差しのべるように言ってくれたからだ。
「斉藤先生に、専門家へのおぼえ書きの解読をお願いするとして、その費用はどうしたらいいのでしょうか。」
「おお、そうだな。専門家に依頼するならば、当然費用も生じるだろう。」
なるほど、斉藤先生の提案した、あの書き付けを預かって専門家に見せたい、って話しを了解してくれたのか。
「わたしの予定では、そのおぼえ書きを私の母校の大学に持ち込んで解読して貰おうと思っていますので、費用はかからないと思います。」
「そうか。」
「もう一つお願いがあるのですが。」
「なんだ。」
「あの城跡の調査の件ですが、もし、私どもの学校だけではなく、大学も調査をしたいといった場合に、ご許可いただきたいのですが。」
そうか、あの書き付けを大学に持ち込んだら、当然の裏付けとなる調査をしたいということになるよな。
俺たち自身の目で確認したかったので、少し残念だ。
「それは…まず、君たちの学校が調査するのが筋だろう。ああ、」
といって、藪内さんは俺と小山内を見る。
「俺君と小山内さんです。」
斉藤先生が藪内さんの言いたいことを察して俺たちの名前を伝える。
「俺君と小山内君が、これまで誰にもわからなかったことを、はじめて見抜いたんだ。まずは君たちが調査しなさい。」
「そうだね。君たちがまず調査するべきだな。」
藪内さん親子は、なぜか揃って俺たちを高評価。
小山内は、とても嬉しそうな笑顔になって
「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。」
なんて照れて、俺に向かって「やったね!」なんて言ってる。
あれは、いつもの俺以外の人向けの中の人がよくやる仮面を一枚かぶった笑顔じゃなくて、心の底からの笑顔だぜ。
まあ、俺も同じように嬉しかったがな。
俺は照れたりしてないからな。勘違いするなよ。
そんな感じで、斉藤先生ウィズ俺たちはついに任務を果たした。
余談だが、心残りだったのは、藪内さんの最後の一言。
「寿司でもとるから、食べて行きなさい。…武光も久しぶりに一緒にどうだ。」
「…ええ、父さん。では、久しぶりに。」
藪内さん親子は、ぎこちないながらもお互いに向かって一歩踏み出そうとしてるのだろう。藪内さんが、この家に武光さんを呼んだのも、俺たちがきっかけで藪内さんの呪縛が緩んだからだろうし。
それでも2人っきりの食事が気まずいだろうから、俺たちを誘ってくれたんだろうってのもわかる。
俺の超能力が効いた、のかも。なのでそれも確かめてみたかった。
だが、そのあたりを話してない斉藤先生は固辞した。固辞しちゃったよ。
ああ、回らない寿司、しかもこんな豪邸に住んでる人が食べる寿司を、一口味わってみたかった。
小山内もそう思うだろ?
「あんた、サイテー。」
そうですか。
翌日。
俺につけられた呼び名は、セクハラ男、だった。
今度は誰も弁護してくれなかった。
頭を抱えてる俺のところにふらっと近寄ってきた伊賀に言わせると、
「嫌がってる小山内さんの姿の目撃者がいたからね。」
とのこと。相変わらずの情報通だな。
ホリーは、
「だいたいみんな事情は察してるから、本気じゃないよ。やっかみもあって言ってるだけでそのうち忘れるから大丈夫。」
だとさ。やっかみ?狭い車内に小山内と乗り込む羽目になることになったことがか?ぽかぽかやられながら?
それにしても、俺の予想したセクハラ大魔王よりセクハラ男の方が肩書き的には下のはずなのに、なぜかセクハラ男の方が心に酷くぶっ刺さるのは何故だろう。
俺はまだ予言能力は未獲得だった。俺が得たのはこれを確認できたことだけだった。たぶん。