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 第71話 再訪 (1)

薮内さんから書付けを預かった夜、俺は帰りに小山内と相談したとおり、鳥羽先輩にメールで、緊急の3部合同の会議をお願いした。一応、重大な展開があったから斉藤先生にも来て貰って欲しい、というのも書き添えておいた。


翌々日の月曜日。

鳥羽先輩が、昼休みに俺たちの教室にやってきて、


「今日の放課後でも大丈夫ですか。」


と聞いてくれたので、月曜日は家に帰って動画見るかゲームするかラノベ読むかしか予定のなかった俺は、もちろん了承した。

小山内も、丁度教室の外から戻ってきたところを鳥羽先輩に呼び止められて了承してた。


自分の席からその様子を見ていた河合さんが、鳥羽先輩にどんな感じでがるがるするか俺は席に戻って、楽しみに見てたんだけど、あれ、何だよ。

いい感じのカップル見ました、みたいな甘い顔は。

あれが、伝統芸能「ただしイケメンに限る!」か!?


なんか、腹立ってきた。死ね死ね書いて河合の机の上に置いておいてやろうか。

というか、この前河合に置かれて捨て忘れてたやつをそのまま置いておいてやろうか。



そういう、些細な波風はたったものの、あとは特に取り立てて話しをするようなことはなく放課後の合同会議に。

歴研の長机はこの前から3本態勢のままだ。お隣さんに返さなくていいんだろうか?


前と同じような並びでそれぞれが座って、先輩達の視線が、俺たちの持ち込んだ風呂敷包みに興味津々という感じで注がれていたところに、斉藤先生が顔を出してくれた。


「待たせたね。それで?」


斉藤先生のもの問いたげな視線が、鳥羽先輩、それから風呂敷包み、それから俺たちへと順番に巡ってきた。


ちなみに説明役を誰にするかは、俺と小山内の間でちょっと揉めた。結局、小山内の繰り出したいつもの「バカなの?」に対して、俺の「よくぞ見抜いた。俺バカだらから説明役はお前に任せた!」とカウンターが見事に決まって、小山内がやることになった。


そのときの小山内の、への字口のうぐぐぐって顔、お前らにも見せてやりたかったぜ。すっげーかわいかったんだからな。


ま、小山内としては、推理を組み立てた俺に譲りたい、って気持ちだったみたいだけど、藪内さんの話をきちんと記憶してそうなのが小山内なのは間違いないから、小山内が説明するのが一番だと思うぞ。


小山内は、立ち上がって、俺の方をちらりと見た後、真剣な表情で説明を始めた。

なぜや藪内さんがこの話をしてくれることになったのか、をまず手短に。息子さんとの話しは完全に省いてだ。

その後、この風呂敷包みが出てきた話になって、ようやく、例の書き付けのお披露目になる。ええと、藪内なんとかさんのおぼえ書きだ。


小山内は、慎重に箱の中から、書き付けの紙をとりだして説明した。


「これがその、藪内次郎おぼえ書き、です。」


そうそう。次郎さんだ。な、やっぱり小山内の方が適役だっただろ?


部屋中の視線がその書き付けに集中する。

小山内は、まだ、その中に何が書かれているかの説明をしていないが、ここにいる人間は全員、藪内さんがあの遠西氏の城跡の土地の持ち主だと知っている。だから、とんでもないものが出てきた、ということは直感でわかったんだろう。

息を呑む音もいくつか聞こえてきた。


小山内は手にした書き付けの最初の部分を開いて、あの「藪内次郎おほえかき」と書かれている部分をみんなに見せた。


斉藤先生がかすれた声で小山内に問いかける。


「小山内君は、それに何が書かれているかの説明はされたのか?」

「はい。聞きました。今から説明します。」


小山内は頷きながら答えて、俺に視線を移しながら続けた。


「俺君も一緒に聞いていたので、もし私の説明が間違っていたら教えてね。」


後半は俺宛だな。でも次郎さんの名前すら怪しかった俺がどこまで憶えてるか。

なんてことを言ったら、どこか蹴られそうだから、黙って頷くだけにした。


小山内は、「藪内さんが、その書き付けを直接読んだのかわからないのですが」と断った上で説明を始めた。


小山内はちゃんとあの内容を憶えていて、きちんを説明した。たぶん。

だから、俺は全を部憶えてないんだから、たぶん、としか言えないんだよ。


最後に小山内は「間違ってるところなかった?」なんてふりやがるから、おもわず、大丈夫だと思う、なんて言っちゃったけど、大丈夫だよな?

小山内は、ちょっと眉を寄せて、「ほんとに大丈夫なの?あんた?」の顔をして俺をじっと見たんで、俺は視線をそらしちまった。ばれたかも知れない。


もちろん、初めて聞いた先生や鳥羽先輩達は、みんな揃ってお口をあんぐり…なんて漫画みたいな事にはならなかったが、それに近い状態だったことは先生や先輩達の名誉のために秘密だ。


鳥羽先輩は、震える声で「大発見だ。」なんて言ってるし、斉藤先生は、「手袋とを取ってくるから。」と言って慌てて部室から出て行こうとしてドアのノブにドン!って音がするくらいの勢いで腕をぶつけるし、緒方先輩は緒方先輩で、今日も打ち合わせを休んだ郷土史研究会のなんとか先輩を呼び出そうとスマホから電話をかけてるし、落ち着いてるのは篠田先輩くらいだ。

…いや、篠田先輩も、なんか大発見、大発見とぶつぶつ呟いて、バッドトリップしてる。

まあ鳥羽先輩と篠田先輩は同じ言葉を口にしてるから、やっぱり相性がいいんだろね。


とはいえ、斉藤先生が職員室から戻ってくる頃には、だいたいみんな正気になってた。

俺と小山内の居心地悪いぞタイムも無事終了。


「見せて貰います。」


戻ってきた、斉藤先生は、なぜか俺たちにそう断って、子供みたいにワクワクした表情を隠そうともせずにあの書き付けを広げ始めた。


すげー!斉藤先生、あの、俺の目には筆でぐにゃぐにゃ書いてるとしか見えないものを読めるんだ!


と、感心したのもつかの間。

すぐにうんうん唸りだした。

あーやっぱり。


「すまない、読めない。」


ついに斉藤先生は音を上げた。


「なんとなくは読める部分はあるけれど、これは難しい。専門家に読んで貰った方がいいと思う。」


俺たちは顔を見合わせた。俺たちに託してくれたってことは、


「私たちに預けていただけたってことは、よその人に見せてもいいってことよね?」


小山内も困った顔をしている。


「だよな?」


俺たちの戸惑いを察してくれたのは斉藤先生だった。


「これは私が直接藪内さんのところにお邪魔して、了解を取った方がいいと思う。すまないが、この書き付けを預かってきた君たちも一緒にきてくれないか?」


いや、そんなこと言われたら、ますます戸惑ってしまうんだけど。

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