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 第70話 亡霊 (5)

どうしよう。たしか俺たちは城跡の調査のお願いに来たんだが、ということを、箱に戻したあの書き付けを藪内さんから小山内が貰ってから思い出した。


この流れだと、小山内は立ち上がって帰ってしまうかも知れない。薮内さんの前だが仕方がない。

おれは俺の左に並んで座ってた小山内の腕を肘でちょんとつついた。


「何よ、こんなところで。」


小山内は、おっそろしい目で俺を睨む。

そりゃ、俺がこの場にそぐわないことをしてるのは分かってるさ。

でも、ミッションはミッションだ。


「いや、ほら、ここにきた理由。」


小山内は、すぐに思いつかないみたいで怪訝な顔をする。


「調査の許可。」


俺がそういうと、小山内は、あっと言うような顔になった。


潤んだ瞳にその表情、やっぱり小山内は美少女だな、と俺の意識が一瞬ヤバい方向に行ってしまいそうになったが、なんとか戻すことに成功。


「お前達は、いまわしの口から、かつてあの城跡で何があったのかを聞いたな。それでも調査するというのか。」


たしかに。

今俺は、藪内さんから確かに何があったかを聞いた。

その証拠となる書き付けも預かった。

その結果、あの城跡は、遠西氏の無念と怨みがこもった場所で、代々の藪内さんの罪の思いが埋がまっている場所だということがはっきりした。

これを読んでるお前ら、わざわざそんなところを掘りたいと思うか?

俺は掘りたいとは思わない。


小山内も思いは一緒なのか。しかし、小山内が口にした言葉はその思いとは違うものだった。

小山内は姿勢を正し、薮内さんを直視して言った。


「はい。調査のお許しをいただきたいと思います。きちんと、現地の状況と照らし合わせて、何が起こったかをより確かに確認する必要があると思うのです。」


たしかにな。

あくまで、藪内さんが語ったのは何百年にもわたって継がれてきた伝承だ。

歴史の事実として確定するためには、現地調査の結果が伝承と一致するのかがやっぱり必要か。

つまり、やっぱり掘らないと、ってこと。

だから、俺も真剣にお願いした。


「僕もそう考えます。どうか、ご許可をお願いします。」


藪内さんは、俺たちの表情を代わる代わるみたあと、ため息をついて言った。


「わかった。話を聞こう。」


その後、俺たちは、まあ主に小山内は、だが、用意してきた資料を見せながら何をしたいのか、どの位置で何をするのかを詳しく説明した。

仕方ないだろ、小山内の方が詳しいんだから。餅は餅屋。


ありがたいことに薮内さんは俺たちの頼みを聞き入れてくれて、穴掘りと出てきた物の持ち出しの許可を与えてくれた。


ただ俺にとって一番ありがたかったのは、


「足を崩しなさい。」


の一言だったがな。


こうして俺たちは、合同調査の許可をもらうという使命をやり遂げ、それどころか歴史の謎を埋める大発見という大成果を挙げてミッションコンプリート!


表のミッションはな。



小山内と2人で、薮内さんちの門を出たあと。

俺たちはどちらともなく口を開いた。


「薮内さんも救いを求める人だったんだな。」

「ええ。それも何百年にも積み重なった、呪いのような苦しみからの救いを。」

「これで、そっちの方の苦しみからは解き放たれるといいな。」

「そうね。でも。」


そう言って小山内は足を止めて俺を見つめた。俺も小山内を見つめる。俺たちはお互いの言いたいことがわかっていた。


「ああ。だがもう一つの方も救われて初めて薮内さんは救われる。」

「ええ。」


だが確かめとかないと。


「ただ、俺がそれに超能力を使ったら、俺たちの利益のために超能力を使ったことにならないか?」

「そうね。」


小山内はちょっと考えて、笑顔で答えた。


「うん。ならないわ。だって私たちが超能力を使っても、使わなくても、薮内さんが私たちのお願いを聞いてくれたことに変わりはないもの。」

「だな。」


もう1つの大切なこと。


「じゃ俺が超能力を使うことは、人の想いを捻じ曲げることにはならないか?」

「ええと、うん大丈夫だと思うわ。たぶん、だけど、薮内さんは親子の仲が元通りの関係になることを望んでるわ。親子の関係が良くなることで捻じ曲げられる人の想いってなんだろう。私には思いつかないわ。」


俺はその答えを予想して、小山内の答えを聞く前から発するべき言葉を探していた。

あれ?これ小山内と通じ合ってるとかないとかそういうんじゃ?

…いやそんな話じゃないよな。わかってるって。単に同じことを考えてただけだってな。


それじゃ。


「薮内省三さんと、息子さんの薮内…」

「薮内武光さん。」

「薮内武光さんの関係はこれからずっと断絶したままだ。間違いない。」


俺のこの言葉を聞いて小山内が意外そうな顔をしている。


「それだと、関係がいつか良くなる、ってことにならない?」

「ああ、そうなる。」

「でもそれじゃ、薮内さん親子がまだ苦しみ続けるんじゃないの?」

「そうかもな。」

「そうかもなって、あんた。」

「だが、長い間かかってこじれた人と人との関係には、いろいろな想いが積み重なってるはずなんだ。それを、超能力を使って無理やりすぐに元通りにするのは良いわけない。そんなことすればまたこじれる気がする。俺たちは2人の関係が元通りになるその確かな道を作ればいい。」


小山内は前にも見せた、あのいろいろな感情が入り混じった表情をしていた。小山内が俺の言葉を聞いて何を思ったのか、そんなことは俺にはわからない。


うん。あん時は俺は小山内のために超能力すら使わなかったな。

小山内は家族への想いを、家族からの想いを、自分自身で前を向くことでこれから乗り越えてゆく。


きっと薮内さん親子にも、同じ未来を見て笑い合える未来が来るだろう。

俺の超能力はきっとそのきっかけを作る。

それでいい。そう俺は思う。


小山内は納得したのかどうか知らないが、前を向いて駅の方に歩き始めた。

そして、わざとらしげに言った。


「あー、誰かさんが黙ってたおかげで私ばっかり喋って、肩凝っちゃったわ。」


やばい。忘れてた。

「小山内、後でしっかり怒られるから、今は俺の話を聞いてくれ。」

俺、こんなこと言っちゃってたよ。

小山内は、これを思い出したのか?

前を向いてるせいで俺に表情を見せてないけど、実は怒ってる?


とりあえず、ご機嫌を取らねば。


「そ、そうか。肩でも揉もうか?」


その途端。

真っ赤になった小山内が振り返って、両手を振り上げて叫んだ。


「な、なにバカなこと言ってるのよ!キモい!変態!エロ親父!近寄らないで!」


ほら、やっぱり怒ってた。


仕方ない。駅に着くまで時間あるし、ゆっくりご機嫌を取ろうかね。


だから俺たちは、ぎゃーぎゃー騒ぎながら追いかけっこして駅へと向かったんだ。


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