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 第67話 亡霊 (2)

すぐそこに答えがありそうなのに、そのすぐ手前で考えがぐるぐる回っているような焦りを感じる。

俺のすぐ隣では小山内は無言のままの薮内さんに必死に声をかけている。


「薮内さん、現在残されている資料では戦国期の三辺氏の支配時期以降のことしか詳しく伝わっていません。遠西氏の資料についてはほとんどないのが現状です。ご存じのとおり遠西氏の居城についても我々の調査でようやくはっきりとしてきたような状況なのです。もしご存知のことや資料があればあるほどそれは大変貴重なものとなります。」


小山内が奮闘している。

そう。


貴重な資料なんだ。

もし薮内さんがさっき言ったように、遠西氏の終焉が誇り高い、武士の面目が立つようなものだったなら、それを俺たちが汚すようなことを言った途端あんな激しい反応を示すような薮内さんなら、それを世に出さないということがあるだろうか?


うーん、

サイダー…

知っていて隠す遠西氏の最後…

全然関係のない2つのことの根っこはひとつ、そんな気もする。


あ、この大きな家に家族が1人もいないと言うのにも引っかかってたんだよな。


パズル苦手なんだよな、俺は。

だが泣き言を言ってる場合じゃない。


とりあえずこれだけの大邸宅があって綺麗に維持されてることはだ。この家には何かの家業があって、それが今も動いてるはずだ。それなら、子供がいるはず。だがここには住んでない。

何故だ?


よくドラマとかであるのは、頑固親父こんな家出てってやるってあれか?

薮内さんは頑固そうだもんな。今それが全力発動中だし。

頑固ってのは裏を返せば、人の言うことを聞かないってことだ。

何か言っても聞き入れてくれないから、もう何も言わないとか、出てってやる、ってことになる。


あ、サイダーはそれで説明がつくぞ。

言っても聞き入れないし、どうしてもサイダーがダメなわけじゃないから、意見を言わない。サイダーを買って来い、と言われたら、ええー、とは思っても、何も言わずに買ってきた、これかもしれない。

それに、お世話をする人がいないことも、夕食の準備をする必要があっても、藪内さんに「もういい、帰れ。」と言われたらそのまま帰ったのかも知れない。


じゃ、なんで薮内さんは頑固になったんだろう?

俺が一番正しいと思ってる?

人の意見なんて聞いてられないとか?


それなら、俺たちに怒鳴った時点で追い出されてそうだ。

それに不器用な感じがするけど俺たちが緊張しないように気を使ってくれてたように思う。

そう言う人が、俺様的な発想してるだろか?


「何か遠西氏の最後について秘密にしておかないといけないようなことがあるのでしょうか。」


その時、小山内が問いかけたその言葉が俺に閃きを与えてくれた。

小山内、まさかおまえ俺の考えてることがわかってヒントをくれたのか?


誰にも言えない何かを守らなくてはならない時に、人は頑なになる。

俺が、超能力のせいで「嘘つき君」と呼ばれていたことを両親に秘密にするために、俺は頑なになった。


俺は、小山内に吐露するまで、誰にも俺の超能力と、それが俺を苛んでいたことを言えず頑ななままだった。


もしかすると、その時の俺と薮内さんは同じなのかもしれない。


でもそこから先がわからん。

材料は出揃っているのに、俺には繋げられない、そういう感じだ。

俺には変態高校生探偵はやっぱり無理だな。

せいぜい変態高校生が関の山か。


ざわっ。


本当にそうか?本当に材料はこれだけなのか?


さっき薮内さんは「遠西様が武士の面目にかけて守った城」ってとこに俺は引っ掛かったんでそこを薮内さんに聞いた。だが薮内さんはたしかこう言ったはずだ。


「遠西様が武士の面目にかけて守った城を自ら三辺に差し出した。」


薮内さんは、遠西氏のことを様付けで呼んだのに、その遠西氏を滅ぼしてその後にこの辺りを支配した三辺氏を呼び捨てにした。


つまり、薮内さんは、いや薮内家はと言った方がいいのか。薮内家は、遠西氏を敬う一方で三辺氏を憎んでいる。

だが、元の領主が滅ぼされて新しい領主が支配するようになったら、元の領主派はよくて追放、悪ければ皆殺しに遭うはずだ。

なのに薮内家はこんな広大な屋敷にもとの遠西氏の城跡の土地まで持っている。つまり遠西氏の配下のままでいたなら、この屋敷はもちろん、薮内家なんて存在していないはずだ。


遠西氏が滅びて三辺氏が支配するようになったのは、鳥羽先輩の話や小山内の話しからすれば間違いのない歴史的事実のはずだ。


とすれば。


俺は、説得を続ける小山内の言葉に、何の言葉も発さず、ただ目を瞑り腕を組んで黙ったままの薮内さんのを見た。


おそらく、薮内さんのご先祖は。そして薮内さんは、いや遠西氏が滅びてから薮内家の子孫は。


その時突然、薮内さんは目を開き立ち上がった。


「薮内さん!」


悲鳴に近い声で僅かに腰を浮かせて小山内が止めようとする。

小山内、おまえずっと正座してたのによく動けるな。

俺なんかとっくに限界を超えて、足が別の生き物みたいになってるぞ。


「便所に行ってくるだけだ。待っておれ。」


薮内さんはそう言って、座敷から出ていった。


こ、これは神が俺たちに与えてくれたチャンスか?小山内におれの考えを話すなら今しかない。


「小山内!」

「あんた、何黙ってるのよ。」


そりゃ小山内怒るよな。眉がこれ以上ないってくらいに逆八の字を描いておられます。うーっ!っていう威嚇音も聞こえてきそうなくらい激おこ。だがそれは後だ。


「小山内、後でしっかり怒られるから、今は俺の話を聞いてくれ。」


小山内の怒りの表情に戸惑いの色が混じった。

俺は小山内の返事を待つことなく、話し始めた。

でも、まず最初に言わなきゃならないのはこれだ。


「小山内が頑張ってくれたから、俺はひたすら考えることができた。ありがとう。」


小山内は俺の言葉に、開こうとした唇をまた閉じた。ありがとう小山内。

それから俺は、ずっと考えていた内容をかいつまんで説明した。


俺の話が進むにつれて、小山内の表情から怒りが消え、純粋な興味の色が濃くなっていく。


俺が最後の推理を伝えた後、小山内がポツリと呟いた。


「もしあなたの推理が正しいなら、薮内さんも。」


そう。薮内さんが頑ななのも、おそらく。

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