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第8章 それぞれの想い 第63話 ミッション (1)

あの夕焼けの再出発から1週間ちょっとが過ぎて、もう6月。あじさいがちらほら咲きはじめている。


一昨日あった2回目の打ち合わせで、中世史研チームに重大使命がくだった。


最初の打ち合わせで、あの城跡に穴を掘って調査するって決まったんだが、あの土地にはもちろん所有者さんがいるわけで、いくら調査のためとは言っても、勝手にあちこち穴を掘っていいってもんじゃない。

当然、事前に許可をもらわなくてはいけない。


なんか埋蔵文化財ほーぞーがどうとかいう法律?については、鳥羽先輩の説明を俺なりに理解したところでは、あそこを開発するするわけでもないし、そもそも城跡と呼ばれてるだけで遺跡と認められてる訳でもないので、届出とかはいらないらしい。

俺の理解が間違ってたらすまん。


話は逸れたが、俺たちの使命は、所有者さんのところに行って、穴掘りの許可をもらうということだ。

歴研の伝統とかで、許可をもらいに行くのは生徒自身の役割で、顧問の先生はやり方の指導はしてくれてもついていってはくれないそうだ。


ちなみに、歴研の伝統かもしれないが中世史研とは関係ないとか言ったとしても、あの森先生がついて来てくれるわけがないので結局俺たちが自分でやらなきゃならないことに変わりなし。

もちろん、こういう自分の利益になることに超能力は使えない。


鳥羽先輩が所有者さんの名前と住所と電話番号を教えてくれたので、とりあえず接触はできる。


ただ、どう切り出したものか?俺はそういう交渉なんてやったことがない。

家に帰ってうんうん唸りながら考えてたところに、俺の煩悶を察したかのように小山内から「明日、放課後打ち合わせ。」とだけ書いたメールが来て、翌日臨時の中世史研の部活をやることになった。


今回は、所有者の人に、お願いすることをメモしていかなきゃならないので、いつもの藤棚ではなく、俺たちの教室が空いてれば教室で、ってことだけ決めて打ち合わせの打ち合わせは終わり。俺が1人で悩んでてもしょうがないし、打ち合わせが決まったから気が楽になってとっととベッドにはいった。


小山内に変な噂でも出て迷惑をかけないように、毎週火曜日の活動日以外は中世史研の活動はしない方がいいって考えてたが、こういう時だから仕方ないな。うん。


とりあえず、ベッドの中で俺がにやけ顔になってるのは自覚している。



放課後、予想どおり、俺たちの教室は空になった。

さっそく予定どおり打合開始。


「まず、どこを掘るのかを描き入れた大まかな図面を持っていかないといけないわね。」

「そうだな。あと、どれくらいの大きさの穴なのかと、掘る予定の日を予備日も含めてお知らせしないといけないな。」

「うん。あと掘るだけじゃなくて、何か出てきた時に持ち出す許可ももらわないといけないわね。」


たしかに、この前の歴研との合同調査の時に鳥羽先輩は、立ち入りの許可はもらってるけど、持ち出しの許可はもらってないって言ってたな。


細かいところを詰めて、メモを作っていく。

どこを掘るのか、の図面は、この前に大まかに決まったのを一昨日の合同打ち合わせで、ほぼ決まったので、それをコピーして持って行くことにした。


ざっとスマホに打ち込んだメモを小山内と一緒に点検する。


「うん。これでいいんじゃない?」


という声と共に、息が俺の頬にかかった。

いつの間にかかがみ込んできてた小山内が、左手で髪を押さえて、俺の右から顔を寄せながらスマホを覗き込んいる。


おい、顔が近すぎる、ほっぺたがくっつきそうになってるじゃないか。いくらスマホの画面が小さいからって、寄りすぎだ。

小山内、おまえ無防備過ぎ。

ここはいつもの藤棚じゃなくて、教室なんだからな。

誰かに見られたら、誤解されて大変なことになるぞ。


主に俺が。


と思ったけど、さすがに一旦空っぽになった放課後の教室に、そんなタイミング悪く戻ってくるやつはいなかった。

俺が気にしすぎなのか?

息が乱れたことを小山内に悟られないように整える。


よし。大丈夫だ。


とにかく、このメモを鳥羽先輩にメールで送って、なにか見落としがないか確認してもらおう。


「これで鳥羽先輩のオーケーが出たら、次の週末にでもお家にお伺いしようか。」

「あんたにしては珍しく前向きね。でも、それがいいと思う。ぐずぐずしてたら期末テストの時期になっちゃうし。」


俺たちは、これまで話してきたような事情で、お互い週末に誰かと一緒に出かけたりするような予定がないことを知ってるから、言わなくても交渉は週末って事になる。

ちなみに、どっちか1人だけで行くって選択肢はない。

俺が1人で行っても交渉できるとは思えないし、小山内に1人で行けなんて、言えるわけがない。

だから、2人で行くのは仕方なく、だぞ。勘違いするな。


「あんたと2人で出かけるってのはとってもイヤだけど、仕方ないわね。感謝しなさい。」


ほらな。


まあ感謝はする。小山内から1人で行ってこいって言われる可能性も…あったのか?

小山内は義理堅いやつだからそれはない気がする。


そんなことを思いながらなんとなく小山内を見てたら、俺の視線に気づいた小山内がいつもの呆れたような表情で鋭いつっこみを入れて来た。


「何見てるの?まさかあんた、私があんた1人で行かせるとでも思ったの?」


正解、とも、そんな答えに困る質問するなよ、とも言えないので、黙ってたら。


「あんた1人で行かせたら、成功する交渉も失敗するでしょ。」

「それは…やってみないとわからないぞ。」

「失敗して、相手を怒らせて、夏の合同調査が出来なくなったら?」

「それは…」

「でも、とってもかわいくて礼儀正しい私が一緒に行ったら、失敗する交渉も成功するでしょ。」


小山内が言っていることはその通りだと思うけど、自分でそれを言うか?

間違いなく小山内の中の人のお尻に悪魔の尻尾が生えてるな。

間違いない。


「わかった。じゃ、かわいいかわいい小山内さんの手腕に期待しております。」


ここは、さからわずにおだてておこう。


「バカ。」


小山内、真っ赤になるくらいならそういうノリはやめとけ。

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