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 第62話 夕焼け (2)

そんな俺たちのこそこそ話を見て見ぬふりをしてくれたか、鳥羽先輩は、みんなの意見をまとめた。


「ということで、ここは環濠集落跡ではないという事で良いと思います。」


全員頷く。


「とすると、ここはやはり城あるいは領主の館跡と考えるべきです。」


これは俺にもわかった。それで?


「であれば、一般的に言われている遠西氏が滅ぼされたという説と自ら支配下に入ったという異説の違いは、あの城跡で合戦があったかどうか、の違いになってくると思うのです。」


なるほど。自ら進んで勢力下に入ったんだったら、いくさをしてないはずだよな。


「そこで、あそこに戦の痕跡があるかを合同で調査して、文化祭で発表してはどうでしょうか?」


篠田先輩は鳥羽先輩と前から打ち合わせしてあったみたいで、うんうんと頷いている。

緒方先輩は、ちょっと考えて


「うちとしてもそれでいい。中田が来てないけど、今日の集まりで決まったら教えてくれ、って言ってたから何をするか決めるのは僕に任されてる。郷土史的にもそのテーマは面白い。」


緒方先輩は少し高めのキーでそう賛成意見を言った。


「私たちもそれでいいです。力仕事が必要ならどんどん俺君をこき使ってくださって結構ですから。」


おい、小山内。いくら部長だからって、それはないだろ。

という抗議なんて出来るわけない。

小山内は、一緒に調査するとか聞いて目をきらきらさせてやがるし、抗議してもしなくても俺がこき使われるのは変わらないだろうしな。


鳥羽先輩はおかしそうに俺たちを見ながら、一応俺の意思も確認してくれた。


「俺君もそれでいいですか?」

「はい。小山内部長がそれでいいなら。ただ、こき使うのは勘弁してください。」


俺のその答えに、「あんたね。」といった小山内の声は、心なしか弾んでいるようにきこえた。


その後、全員で具体的な内容の検討が始まった。

コの字型になってたテーブルがずりずりと動かされて3本並べて即成大テーブルに。

その上に、この前の調査に使った堀の位置が書き込まれた地形図とか、地図サイトからプリントアウトした航空写真の拡大コピーを広げながら、鳥羽先輩と緒方先輩が何やら話してる。小山内もその図を真剣に見つめながらどんどんアイデアを出している。

新たな地形図のコピーが用意されて、Xのマークや線とかが書き込まれていく。


小山内が意見を出して一旦書き込まれたXマークが、緒方先輩の意見で消されて少し離れた位置に新たに書き込まれる。そこに篠田先輩が、「最近の現地調査でそのあたりに大きな木があった。」と言ってスマホのアルバムを呼び出してみんなに見せる。「じゃ、その木を目印にしよう。」と鳥羽先輩が応じる。


熱を感じる議論に、俺は置いてけぼり気味だが、まあ俺は頭脳労働じゃなく肉体労働担当と部長様に命令されたから、それに従うしかないよな。


というわけで俺は聞き専門だが、先輩たちや小山内の話を聞いていると、どうやら、夏休みにあの城跡を何か所か掘ってみて、焼けた建物の跡や何か戦に関係があるものが出てくるかどうかを確認するという方法でやるってことがわかった。


夏休みに穴掘りか。

これ、こき使われコース確定だよな。

小山内が、授業でも見せないくらいに熱心に議論してる、ちょっと新鮮な姿を見ることが出来たのと引き換えで。

いろいろあったけど、小山内が元に戻って、それ以上に元気になってよかったぜ。


そんな感じで、1回目の打ち合わせは終わり、来週は準備の分担なんかを決めるためにもう一度歴研に集まることにしてその日は終わった。



帰り道、わざわざ小山内と別に帰る理由もないので、俺と小山内は一緒に駅に向かった。


熱心な議論にいつの間にか時間が過ぎていて、もう夕方だった。


小山内は、坂道の正面から差す夕日がまぶしいのか、顔に手をかざしながら、話しかけてきた。


「楽しみね。」

「そうだな。」

「なによ。楽しみじゃないの?」

「いや、楽しみだよ。」

「だったらもっと、嬉しそうに言いなさいよ。」

「いやあ楽しみだなあ。」

「ふざけてるの?」


そういう小山内は別に怒ってるわけじゃない。

なんか、まるで誕生日のプレゼントを待つ子供のような口調なんだ。


小山内はそう言いながら俺よりちょっとだけ前に出て、歌うように続けた。


「最初はね、あんたの超能力を使った人助けの隠れ蓑にって考えて始めた部活だったけど。」


うん?


「なんだか楽しいの。」

「うん。」

「はーっ。一緒に活動する部員があんたよりもーっとイケメンで、知識ももーっと広かったら、もーっと楽しかったはずなのにね。」


そう言いながら小山内は俺の方を振り返り、ちょっだけ舌を出して見せた。

何この可愛い生き物。

なんで俺はついつい言っちゃったよ。


「俺は、小山内と一緒に部活やれてよかったぞ。」


言い終わってから俺は自分の顔が熱くなってるのに気がついた。

夕陽のお陰で、小山内にはバレてないよな?


小山内の方は、


「何言ってるのよ、相変わらずバカね。」


と言いながら笑ってる。

おまえ、ちょっとくらい照れてくれてもいいんだぞ。



さっきの部活とは対照的な、まったりとした時間が流れる。

通いなれ始めた、いつもの駅まで続くこの道が、駅までのこの時間が、とても大切なもののように感じる。


「夕焼け。」


俺の横に戻って来た小山内がポツンとつぶやく。


「ああ。」


言葉にするのも惜しいような、そりゃもう真っ赤な夕焼けが俺たちを包んでる。


あの、桜並木で小山内と握手した時のようだ。


俺たちは、また少し黙って、歩く。


俺は、なんとなく、今がその時のような気がして、正面の夕陽に向けていた視線を外して、小山内をしっかり見つめて口を開いた。


「いろいろあったけど。」


小山内が正面の夕陽にまた手をかざしながら、俺に視線を向けて。


「また、よろしくな。」

「また、よろしくね。」


そして、俺たちはクスクス笑いあった。

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