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 第58話 チーム (2)

ホリーに悪気がないどころか心配してくれてるのはわかってる。

だが、俺はなんて言えばいいのかさっぱりわからん。

恐ろしいことに、何一つ説明してもいいことがないんだよ。


でもさ、何か言わないとヤバそうな気がする。俺はホリーの方を振り返るフリして、いつもの目力会話をできないかと小山内の様子を伺う。


いつの間にか小山内の元には小山内を心配した小山内カーストの女子たちが集結。半分は俺を睨んでる。

当の小山内は、俺の視線に気づかず、硬い笑顔を浮かべながら、「なんでもないの。」って繰り返してるみたいだ。

だが、その表情でそのセリフ、間違いなく俺がなんか酷いことをやらかしたことになるんじゃね?


「テル、何があったか知らないけど、とにかく謝りなよ。あの小山内さんの様子はただ事じゃないし、このままだとテルは女子の敵に認定されちゃうよ。」

「そうだなテル。河合さんなんか急先鋒で焚き付けてるぞ、あれ見てみなよ。」


来なくていいと言ってるのに伊賀が寄ってきて、聞きたくない情報をご丁寧に教えてくれた。

うん。たしかに河合さんが俺を指差して、なんかコソコソ言ってる。


それを見た俺はちょっと頭が冷えて、教室の中を見渡す。


男子もなんか微妙な空気になってる。


これかなり深刻な状況なんじゃないか?


いきなり冷や汗が背中にわいてきた。

これもしかして、俺クラスで孤立してしまうかも。

中学の時のあの感覚が突如として蘇ってきた。


「あ、あのな、俺は…」


その時。


「そんな訳ないよ!」


突然教室に響き渡ったのは竹内さんの声だった。

小山内周囲にいた女子がびっくりした顔をしている。


「みずっちから聞いたけど、凛ちゃんと俺君は一緒に一生懸命春田さんを助けてくれたそうだよ。何があったかは話せないって言ってたけど、すごく凛ちゃんと俺君に感謝してるって。そんな俺君が凜ちゃんにひどいことするはずないでしょ。」


ありがとう竹内さん、春田さん。

涙が出そうだよ。


「そうなの。だから心配しないで。ちょっとしたことがあっただけだから。みんな心配してくれてるようなことは何にもないから。」


こっちは小山内。

一体俺は小山内に何をしたことになってたんだ?


「だな。テルは口は悪いけど、女の子にひどいことはしないさ。」


伊賀も加勢してくれて、ホリーもわざとらしいほど大きくうんうん頷いてくれた。


女子は、竹内さんとイケメン2人の登場に勢いを殺がれた格好に。

中学時代には絶対に有り得なかった展開だ。

これも、小山内のおかげなんだろうか?

それとも、小山内のせいなんだろうか?


そこで今井先生が教室に入ってきた。

いつの間にかチャイムが鳴ってたらしい。


俺なんとか助かったのか?

まあ、河合さんの「死ね死ね」が机に置かれるくらいはしょうがない。



その後、小山内は、フリーズしなくなった。

俺は、小山内との接点があるからあんまり実感しなくなってたけど、小山内がちょっと様子がおかしくなったくらいであの騒ぎって、やっぱり、小山内は人気者なんだな。

俺用の小山内の中の人も、他の人向けと同じように丁寧に接してくれたら、俺も言うことないんだけど。


さて、そういう騒ぎがあったものの、無事に放課後部活タイムだ。


だが、藤棚にしたのはやっぱまずかった。藤の花を見上げただけで悶え死にしそうだぜ。

藤の花を見に来たやつが変な顔して俺の方見てたし。


テラスの方から小山内がやってくるのが見えた。

なんか眉が逆八の字になってるようだ。

歩き方は、いつものすっすって感じの歩き方なんだけど、俺の脳裏には怪獣映画のテーマ曲が流れてる。

小山内は俺の方に一直線に近づいてきながら、例のずっしりとした視線で俺を見据えて、低い声で言った。


「あんたね。もうちょっと場所考えなさいよ。バカなの?」


いや、全くその通りでございます。なので、朝ホリーがくれたアドバイスにしたがって、素直に謝った。


「悪かった。俺の選択ミスだ。ごめん。」


俺がそんな風に素直に謝るとは予想していなかったらしく、小山内は、勢いを削がれたみたいだ。


「…わかってるならいいのよ。」


いや、これ、待ってる間に、俺は自分の選択ミスを痛いほど感じたし、フリーズ小山内ならもっといろいろ感じただろう。

ようやく小山内は、少し表情を緩めてくれた。


「まあ、反省してるようだから許してあげる。でもね、勘違いしないで。私はあなたのことなんて、なんとも思っていないんだからね。あれは…そう、あれは出来心だから、すぐに忘れてしまいなさい。いいわね。」


視線を俺からそらして、小山内がごにょごにょ言ってる。残念ながら耳もきれいな黒髪に隠れていて見えないので、どんな顔してこれを言っているのか全く不明。


普通なら、これラノベに出てきたりするツンデレか?とか思うところだろうけど、きっとそうじゃないなよな。

なんていうか、俺と小山内は、そういう関係というより、人助けのパートナーだし、なんか、前から、俺のことをそういう関係では拒否するような感じだった気がするし。

ま、多分これが正解だ。


それに、そうしておかないと、俺も、小山内もやりにくい。当分はな。


というようなラノベ展開を俺が妄想している間に、小山内が立ち直った。


「気付かなかったけど、藤棚きれいね。」

「おう。」


思わず、昨日、藤の幻想的な中にいた小山内は女神みたいだったんだぜ、と口走りかけたが、それを言うと、多分今日は部活出来なくなるから、我慢した。

小山内も俺に言われてもキモいだけだろうし。

だから、ここは事務的な話しを始めよう。


「鳥羽先輩からのメールだけど、転送したとおり、郷土史研究会との合同調査で、最終的には秋の文化祭での合同発表に向けたものになるそうだ。」

「うん。そうらしいわね。」

「知ってたのか?」

「前に斉藤先生がちょっと言ってたの。」


斉藤先生は、歴研の顧問な。


「去年までは歴研と郷土史研究会が合同で発表してたそうよ。同じ歴史系だからって。」


俺が入ろうと思った、甲冑同好会だか、甲冑研究会だかは、ジッセン系なので歴史系に入れて貰ってないのか。


「そうなのか。鳥羽先輩のメールだと、あくまでお誘いだし、一緒に調査に行っても発表まで一緒にしなくてもいいそうだ。」


これは、小山内にメールを送った後に、今日の部活に向けて追加で質問した時に教えて貰った。


「調査の時期は夏休み。俺たちが参加するなら、それに向けて、中間テスト後に3つの部で計画を練るので、参加するかどうかだけ早く教えて欲しいそうだ。」


もうはじめての中間テストが目の前に迫ってる。この英堂館高校では、テスト中とその前1週間は部活禁止で、今日はその活動出来る最終日になる。

それもあって、今日小山内と打ち合わせしなきゃならなかったんだ。


「そうね。あなたはどう思う?」

「参加したい。小山内はどうだ?」


前の合同調査の時、小山内、すごく楽しそうにしてたからな。だから当然参加一択だろ。


「そうね。うん。参加したい。」


小山内は期待で目をきらきらさせながらそう言った。


そんな感じで、俺たちの部活は無事続くことになった。


実は、俺、小山内との超能力を使った人助けはやめるつもりだったんだけど、表の部活の方は続けたかった。小山内が楽しそうだったし、俺もなんだかんだ言って冒険心をくすぐられて楽しいからな。

でも、小山内と一緒の人助けはもうしない、って決めたとき、半ば諦めたんだ。

その後、小山内との人助けを続けるって事になったけど、中世史研究会の活動の方はどうなってたかわからない。


だから、鳥羽先輩からのメールがなかったら、こんなに早く再開できたかどうか。

だから、鳥羽先輩、1割くらいは感謝するぜ。

残り9割は、やっぱり「なんて間が悪いんだよ」だけどな。


で、合同調査に参加するって決まったことを、その夜俺から鳥羽先輩にメールした。

中間テスト前の最後の活動な。



んで水曜日。

小山内は調子を取り戻したみたいで、朝からいつものメンバーとお喋りしてた。

俺の方も変わりなし。

さあ中間テストに向けて勉強するぞ!

今日の報告終わり。



と、いくはずだった。

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