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 第55話 苦しみの先にあるもの (1)

小山内はもしかすると、俺が小山内を苦しみから救うためには超能力を使わないことを予感していたのかもしれない。


あの「ずるい」の時に。


では、超能力を封印した俺に出来ることはなんだろう…

俺は小山内のために何が出来るんだろう。



その時、俺はふと我に返った。いや、ようやく、と言った方がいいか。


いつも小山内にバカバカ言われてる俺がさ、いくら1人でうんうん考えていても良い考えがほんとに浮かぶんだろうか?

歩道橋から始まった人助けは、俺と小山内がチームでやってたのに?

俺が小山内を救いたいって気持ちは本物だけど、俺は格好つけて1人で人を救えるような人間だったっけ?

俺なんて超能力使えるだけのただの高校生なのに?

というか、超能力を封印しちゃったら単なる調子に乗っちゃうバカな高校生じゃないか。


そう思った俺は肩から力が抜けるのを感じた。


そう。俺が一緒に今まで人助けしてきた最強の相棒が目の前にいるのに、なんで1人で考えて、1人で救おうと思っちゃったんだ?ほんと、バカなの?俺は。



「小山内、やっぱ俺にはおまえを救うの無理だ。」


小山内は、涙で濡れた顔を上げ、涙でうるんだ瞳が鋭く俺を貫いた。


「私に嘘をついたの?私を助けてくれるって言ったの嘘だったの?」


小さいが鬼気迫る声だった。固く握った手が震え出す。


「俺みたいな、超能力を使えなかったら何にもできないバカな高校生が、超能力もなしで1人でおまえを助けようなんて、もとから無理だったんだ。」


小山内は食いしばった口の端から絞り出すように、


「うそつ…」


全部まで言わせず、俺は被せて言った。


「だからさ、一緒に見つけようぜ。」

「…」

「小山内、おまえはさ、どうしたらいいと思う?」

「へ?」


小山内のぽかんとした顔もなかなか可愛い。

いや、そうじゃなくて。


「昨日もおまえに言われたばっかなのに、なんで俺は治んないんだか。なあ?」


小山内は何を言われてるのか理解できてないようだ。

あんだけ俺にバカバカ言った挙句顔も見たくないとか言ったくせにな。


「おまえ、俺に言ってたじゃないか。俺は、独りよがりのガキで、パートナーのおまえにも相談せずに突っ走ってって。」

「私はガキとは言ってないわ…」


そうだっけ?てか、そんなことはどうでもいい。


「これは俺たちの人助けだから、俺たち2人でおまえを助けなきゃならないんだよ。」

「それは。」

「俺がおまえを助けるなんて言って悪かった。」


小山内の顔に一旦広まった困惑が理解に置き換わっていった。


「俺の超能力ではおまえは救えない。だが、な。」

「だけどそれは何もできない、私は救われないってことじゃないのね。」

「そうだ。」


ようやく。


「だいたいな、おまえ…」

「おまえ言うな。私を泣かせたくせに。」


小山内の涙の流れた顔にいつもの調子が戻ってきた。

こういう所が小山内だよな。


いやちょっと待て。今頭に何かが引っかかった。


俺の中では形になってないけど、口に出せばきっと小山内が一緒に考える。相棒だからな。


「両親と陽香ちゃんが苦しむのはおまえのせいだって、おまえは苦しんでるんだ。」

「そうよ。」

「なんでおまえの両親や陽香ちゃんは苦しむんだ?」


あ、小山内が怒り始めた。


「そんなの決まってるじゃない。何度も言う通り、私を1人で日本に残していったからよ。」

「おまえは、1人日本に残されて辛かったか。」

「当たり前でしょ。」


何当たり前のことを聞いてるんだって?

小山内もそう思ってるみたいだが、ほんとにそうか?

本当に今もそうなのか?


「じゃ、おまえは今も辛いのか?」

「そうよ。」

「おまえ、おじいちゃんやおばあちゃんと一緒に住んでるんだろ。」

「そんなの、両親や妹と一緒なのとは違うじゃない。」

「両親や陽香ちゃんとは毎日ネット使ってだけど話してる。」

「そうだけど。」

「おまえには友達ができた。」

「そんなの…」


小山内は、言いよどんだ。

小山内カーストの誰かが言ってたな。小山内はつきあいが悪いって。

小山内は、心を許せる友だちが少ないのか?


「おまえは、俺を巻き込んで、人助けをはじめた。」

「それは、私も助けて欲しかったから。」

「でもそれで、榎本さんも、春田さんも、救われた。」

「…うん。」

「榎本さんや春田さんを救えて、俺は嬉しかった。また、おまえと一緒に誰かを助けたい、って思った。」

「それは私もそう思った。嬉しかった。でも。」


小山内は何かを考えはじめた。


「…でも、それと1人が辛いのは別。」


うん。たしかに。だけど、そうか?


「おまえさ、歴研との、巡検、楽しかっただろ。」

「ええ。」

「あんとき、おまえ目をきらきらさせたもんな。」


小山内、あのときすっげー楽しそうにしてたもんな。いつもの小山内カーストでつるんでるときより、なんか口数も多かったし、自然に話せてた気がする。


…何度も言うけど、自然に耳に入ってきたんだからな。


「おまえ、両親いなくっても、楽しめること、やりがいのあること見つけたじゃないか。」

「だから、それとこれとは…」


小山内の心の中にあるものの代わりにならないことはわかってる。でもな。


「おまえは、もう1人じゃ何にも出来ない子供じゃいんだよ。」

「……」

「たしかに、おまえは、1人残されて辛かったんだろう。」


あ、そうか。俺、ようやく自分が何を言いたいのかわかった。


「だが、おまえはもう、子供じゃ無い。自分の世界を自分で作っていけるんだ。」

「それは…」

「おまえが1人日本に残された辛さはさ、消せるものじゃ無いと思う。」

「そうよ。」

「でもな、小山内が日本に残ったから、榎本さんも、春田さんも救われたんだ。」

「だけど。」

「小山内が日本に残ったから、おまえは、歴研の人たちと出会えたんだ。」

「だけどそれは、」

「小山内が日本に残ってくれたから、俺は、秘密を共有できる人を見つけることが出来た。」

「だから、何が言いたいの?」

「俺はな、もう、小山内は、日本に残ったのも悪くなかった、って思ってるんじゃないか、と思うんだ。」


小山内は黙り込んでしまった。

たぶん、もう小山内は俺が言いたいことをわかったと思う。


「お前の世界は、これからどんどん広がってって、楽しいこと、嬉しいこと、どんどん見つけていけるんだぜ。」


小山内は、俺の顔をじっと見た。


「これからの小山内が、おまえの両親も陽香ちゃんも、お前自身も救うんだよ。」


小山内。ごめん、なんか、散々お前を辛い目に遭わせて、泣かせて、結局言いたかったことがさ、青春ドラマみたいで。

こんな廻り道させちゃって、ごめんな。


だけど、これが俺が小山内と対話して見つけることのできた答えだ。


小山内が、俺から視線を外す。

それから、盛大にため息をつく。


「はーーっ。あんた、私を救うって大見得切って、私を泣かせて、絶望させて、その挙げ句が、自分で自分を救えって?」

「そうだ…そうです。」


小山内が、もう一度俺を正面から見た。


「あんた、やっぱり嘘つき君ね。」


そういう小山内は、笑っていた。

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