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 第49話 後日談から始まるストーリー (3)

藤の花を見にきていた女子が去ったベンチに、俺は小山内を座らせた。

差し伸べた俺の手を凝視した小山内が、自分で歩いて行ってくれただけだけどな。


無言で座る俺たちの間を乾いた風が抜けていく。

藤の葉がサラサラ鳴り、遠くで小鳥が誘いの歌を歌ってる。


ひたすら地面に視線を落とし続ける俺たちだけが、その世界から取り残されたように沈黙を続ける。


時が過ぎ、テラスから聞こえてきていた話し声が消えた頃、小山内が目を地面に落としたまま微かに呟いた。


「もう活動はしない。

誰も助けない。

あなたはそう決めたというのね。」


俺はどう答えたらいいのか。

これから俺が誰も助けない、ってわけじゃない。だが、小山内と一緒にってのはもう無い。

だから。


「ああ。」


俺も地面に目を落としたままそう答えた。

小山内が何かを言いかけて、やめた。


そのまま、また時が過ぎていく。


だが、ずっとこのままってわけにもいかないな。

俺は、黙ったままの小山内に声をかけようと、息を吸った。

その時。


「ずるい。」


小山内の口から、俺が予想もしなかった言葉がこぼれた。

ずるい?

俺が活動をやめることがか?


「ずるいわ。」


俺は小山内の言葉に激しく戸惑った。


いつも小山内が俺に見せていた姿は、自信家で、怒りっぽくて、そのくせ気遣いができて、優しくて、苦しむ人に寄り添える、そんな姿だった。

その小山内が「ずるい」という心の闇を映す言葉を繰り返している。


小山内の目から光るものがこぼれ落ち、土の上で砕けた。硬く握りしめた華奢な両手は細かく震えてる。


ああくそっ!

「ずるい。」って何がなんだよ。

小山内、おまえ俺にはなんでもずけずけ言ってきたじゃないか。なんで涙を流すほどのことなのに、俺に言わないんだよ。


ただ。その思いと同時に。

小山内は、俺が自分で気づかなきゃならなかったことは、俺が自分で気づくようにヒントをくれただけだった気がする。

俺は、入学式から始まる俺たちの1か月を思い起こした。


そうだ。小山内は俺にバカバカ言いやがるが、俺と一緒に人を救うという活動をすることは絶対にぶれなかったり、その俺の気持ちについてはバカにしなかった。

小山内はそういう、なんていうか誇り高い奴だ。


だとすれば、やっぱり、俺の中で小山内と「ずるい」という言葉が象る姿とは重なり合わない。


その時、不意につい1か月ほど前、ここで小山内と交わした会話が鮮やかに俺の脳裏に蘇ってきた。


「私にも救って欲しい人がいるのよね。だから、そのお礼の前払い。前払いするんだから、絶対逃げないでよ。」


そういえば、俺、こんな約束を小山内としていた。

そのときの小山内の口ぶりから、なんとなくそんなすぐに俺達が取りかからなくちゃならない事だと思えなかったし、小山内も、切り出してこなかった。

だから、俺の中で、印象が薄れていってた。


だが。


「ずるい」が何を意味するのかやっぱり見当がつかないが、小山内の、いつもとはかけ離れた様子と、この時の言葉から、おそらく小山内が助けて欲しいと願っているのが小山内自身だとはなんとなくわかった。


だったら。


「小山内。」


返事はない。


「小山内!」


ビクッととした小山内は、涙目で俺を見た。

どうしたっていうんだよ。おまえは、何があってももっと堂々としてなきゃ。


「小山内!!」


「なによっ」


鼻声だが、さっきの「ずるい」よりゃよっぽど小山内らしい声が出た。

あーあ。俺はやっぱこっちの小山内を見てたいぜ。


「活動はやめるが、その前に小山内との約束は守るぞ。」


さっき活動をやめるって言った時は、小山内との約束のことは思い出してもなかったが、俺は人助けはしようとは思ってた。

なので、これはギリ嘘じゃない。

嘘つき君としてはそこは大事なところだぞ。


俺がこんなことをうだうだ考えてる間に、小山内の方でも、ようやくいつもの中の人が長期休暇明けで戻ってきた。


「あんたが何を言ってるのかわからないわ。」

「だ、か、ら。

 おまえを救ってやる。」


その時の小山内の顔、おまえらに見せてやりたい……とは全然思わない。

ありゃ、超能力を持ってる俺だけのもんだかんな。

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