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 第45話 決戦 (2)

後でホリーに聞いたら、教室に戻った俺はとてつもなく恐ろしい顔をしてたらしい。


そのせいか、その日の授業は先生に当てられることもなく、いつの間にか終わっていた。

掃除から帰って来た後、俺は小山内に軽く頷き「小山内、後でな。」と声をかけて教室を出る。

幸い、今日は中世史研究会の活動日にあたってたので、俺が小山内に頷きかけたことを気にかける奴はごく一部のやつを除きもういなかった。


急いで駅に向かい予め調べておいてた電車に飛び乗る。

この前春田さんと落ち合った駅で下車。そこで一本電話を入れ、春田さんの家へ。

春田さんのお母さんは、俺だけが来たことに戸惑った様子だったが、中橋部長が1人の時に来たらどうしようかと思ってたらしく、何も言わずに家にあげてくれた。

軽い打ち合わせが終わった頃に、小山内と春田さんが到着。

俺は鳥羽先輩から借りて来たICレコーダーを録音状態にして隠した。


春田さんの家のリビングに静寂がまとわりつく。

その時が来るのをひたすら待つ。

春田さんは顔色真っ白にして、小山内の手をぎゅっと強く握り締めながら、椅子に座っている。

それでも震えは止まったようだ。

春田さんのお母さんも俯き加減でリビングのソファに座ってその時を待っている。



「ピンポーン」


約束の時間を10分ほど過ぎた頃、ドアのチャイムが鳴った。

ビクッとしたお母さんは、引きずりがちなスリッパの音をさせて玄関に出ていく。

しばらく玄関でボソボソと話している声が聞こえて来た後、スリッパの音が2人分に増えてリビングに戻って来た。


お母さんに続いてリビングのドアに姿を現したのは、黒字に銀の細い縦縞が入ったスーツを着た、脂顔のでっぷりと太った中年男だった。手には紙袋と鞄を下げている。

こいつが中橋部長だろう。


中橋はリビングに入ろうとして、高校の制服を着てる俺達3人に気づいたらしく、足を止め、不快そうな顔でお母さんを見た。

お母さんは俺たちに視線を送り、中橋に紹介した。


「真ん中が私どもの子で瑞です。その両隣が瑞の友人で、瑞が心配ということで付き添っていただいています。」


俺たちは敵意を隠して頭を下げた。


「そうですか。よろしいのですか?」

「はい。まだ子供ですので、よくわからないと思いますが、どうかよろしくお願いします。」


そうですか、と言って中橋は勧められもしないのにソファに座った。俺たちも着席。


一瞬の沈黙が流れ、春田さんのお母さんが聞いた。


「今日来ていただきましたのは、夫の行方不明についてなんでもいいので教えていただけないかと思いまして。」

「どうか奥さん、お顔をあげてください。私どもの会社でも、春田くんがなぜいきなり仕事をほうり出して失踪したのか、調べたのですが皆目見当がつかんのです。」


神妙な顔をしてるが、口角が上がってるぞ、中橋。

しかし、仕事を放り出すだの失踪だの、よく言えるもんだな。

行方不明になった家族を心配して憔悴しきった妻と子供を相手にマウントを取りに来てるってことか?だったらこいつは大した奴じゃないな。


「夫がご迷惑をおかけして申し訳ありません。では会社で夫の行き先をご存知の方は。」

「おりませんな。」


中橋は一言の元に否定する。そう言いながら鞄に手を突っ込んで何かを取り出そうとした。


まさか、俺の超能力が効かなかったのか?

いや、俺の超能力は、俺が絶対起こると言ったことが、合理的な理由があって起こらない、というものだ。

だからこいつが話してしまう合理的な理由を作らないといけないということかもしれない。


それは、今、俺が用意しないといけない。


「不思議なことをおっしゃいますね。中橋さん。」


俺はソファに背に体を預けて、薄ら笑いを浮かべながら、いや、薄ら笑いに見えるようになんとか顔の筋肉を操りながら、話し始めた。

小山内が驚いた表情をしたのが視界の端にうつる。


「なにっ?」

「不思議なことをおっしゃいますね、と言ったのですが。」

「何が不思議なんだ。」

「あなたは、春田さんが行方不明になった原因も行き先もちゃんとご存知なのに、社内にそれを知る人がいない、とおっしゃったことですよ。」


中橋の顔色が変わったのを見てクスクス笑いも追加してやる。

お母さんも突然の暴露に頭が追いついてないみたいで呆然としている。


「おまえ、何を言っとるんだ!!」

「お気に召しませんか?ではもっと言って差し上げましょう。あなたは、春田さんが監禁されているのもご存知だ。あなたがそう仕向けたから当然ですな。」


俺の演技力と胆力はもうすぐ尽きそうだ。超能力の効果まだかっ?


中橋が真っ青になりながら絶句した。


まだなのか。なら一手詰め寄ってやる!


「あなたはもうおしまいですな。こんなことまでしでかして。」


中橋は、顔色を青黒くさせながら全身をブルブル震えさせ始めた。


「おまえ、何を知ってる?」


俺?何も知らん。

だがいやらしい笑いを浮かべてやった。昨日眠れなかったんで鏡見ながら練習したんだ。

こんなこともあろうかとって呟きながらな。


「ほぼ全て知ってますよ。ほぼね。

まさかあなた、何も知らない人間が、のこのことこんなところに現れるとでも思うんですか?

聞いたとおり、おめでたい人ですな。」


そんな話し、俺は誰から聞いたんだよ。


あ、中橋が俯いた。震えはますますひどい。

春田さん、春田さんの震えの分の仇はとったぞ。


「手遅れにならないうちに自首しないとどうなるか。いや楽しみですな。」


俺の言葉に中橋は膝から崩れ落ちた。打たれ弱っ!

だがよし。


「春田さん、では私から何が起こったか説明しましょう。中橋部長は自分から説明して、被害者の感情を和らげたいとすら思ってないようですので、刑務所で長いお勤めがしたいんでしょう。」


ここまで言って大丈夫か俺?でも何日も人を行方不明にさせたんだったら刑務所だよな。

大丈夫だよな?

な?


俺は、中橋に喋るチャンスを与えたくないような、まるでこの状況を楽しんでいるかのような表情を作って、口早に話し始めた。


「春田さんが行方不明になったあの日、お父さんに仕事を命じたのはこの中橋部長です。」


「わかった!!!喋る!喋るから許してくれ!!」


本来なら、子供の付き添いでしかない俺が、社内のこと、特に中橋の関与がはっきりしている急所となる部分をいきなり話し始めたんだ。

俺の言葉通り、俺が全てを知ってると思ったんだろ。


俺にはこれ以上中橋を追い込める情報は無かった。

やばい。やばかったけど、超能力が発動するはずだと信じてたからできた芸当だ。

だが、余裕を見せ続けないと、こいつ誤魔化すかもわからないぞ。


「仕方ないですね。これだけご家族を苦しめたんだ。長く長く刑務所に行って欲しかったんですが、ご家族も、私なんかから真相を聞くよりも、わざわざここに来ていた、中橋さん、あなたの口から聞きたいでしょう。あなたにチャンスを上げましょう。」


俺、どこの変態探偵だよ。

あ、小山内がどん引きしてる。

春田さんは、無言で中橋を冷たく見下ろしてる。まあそうだろうな。


「わかった。話す。

俺は専務に言われて春田君に指示をしただけだ。詳しいことは何も知らない。

しばらく春田君が帰ってこられないからうまく誤魔化せといわれたんだ。」


違和感のざらっとした感覚がここにもあった。こいつ、誤魔化してるはずだ。


「せっかくのチャンスを棒に振るとは。では…」

「わ、わかった!わかった!」


だが、中橋は喋らない。

崩れ折れた姿勢のまま両手を床について乱れた浅い息を繰り返すだけだ。

床にしたたり落ちた汗の痕が3つ4つと増えていく。


喋らないのか、こいつ?

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