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 第42話 行方不明 (5)

「お父さんが取引先での仕事を終わったのに、会社に戻っていなかった場合だ。」


俺はなんとなくだが、こっちの可能性が高いと考えてた。だから1本目の指の方は、今から話す方をよりしっかりと考えるため、むしろ可能性を排除するために検討した面がある。


俺は喉の渇きを覚えて一口メロンソーダを飲んだ。

アイスがほとんど溶けてるけど、冷たくて甘いメロンソーダほんと美味しいな!

2人も釣られたように飲み物に手を伸ばす。


一息ついたところで再開した。


「お父さんが会社に戻っていなかった場合、お父さんに仕事を指示した部長は、お父さんが報告に来ないことで会社に帰って来ていないことに気づいたはずだ。」

「そうね。」

「そのはずだね。」

「わざわざ部長自身が、取引先に行った結果を報告するように命じたことといい、担当者が休んだことで説明の日を変えてもらうのではなく、代役を急遽立てることにしたことといい、課長を飛ばしてお父さんに直接指示したことといい、この部長はかなりその取引先を重視していたはずだ。」


2人は頷く。


「なのに、会社にお父さんが戻って来なくても、家に帰宅していないかの確認の電話一つよこさなかったことになる。普通なら指示通り報告がなければ、直接家に帰ったんじゃないかと考えてもおかしくないのにな。」

「でも、お父さんか部長さんがスマホで連絡した可能性はあるんじゃない?」

「もしスマホで連絡したのなら、というか出来たなら、お父さんは家にも連絡できたはずだ。」

「たしかに。いつものお父さんならきっとそうする。」


春田さんが強く頷く。

お父さんの行方不明が故意じゃない以上、お父さんは連絡できる状態にあったなら、会社と家と両方に連絡を入れたはずだ。どちらか一方ということはありえない。


「部長が、お父さんがその日報告に来なくて、しかも、連絡すら来なくても不審に思わない場合というのは。」

「あらかじめ、お父さんがその日帰ってこないことを知っていた場合ね。」

「そうだ。」


小山内のいう通り、部長はお父さんがその日戻ってこないということを知っていたことになる。


「でも、もともとそういう予定だったかもしれないよ?」


春田さんの口にした疑問はその通りだ。ただし。


「ただ、それならそのことを部長は予めお父さんに言っておくはずじゃないか?」

「単にいい忘れたということもあるんじゃないかしら?」


たしかに。その可能性は捨て切れないのか。


ただ、何か引っかかる。

どこだ?どこにヒントがある?

俺は春田さんの話をもう一度最初から思い出す。おそらくその何処かに。

俺は深く考え込んだ。


「… 取引先に説明に行くはずだった人が休んでしまったので、お昼過ぎに部長の指示でその代わりに急遽その取引先に出かけることになった…」


ここだ。ここにざらっとした感覚を覚えた。きっとここに何かある。


考えろ俺。


そうか。お父さんは、説明に行ったんだ。しかも急遽決まった代役でもできるくらいの説明だ。説明に行くだけの事が、元からその日に帰ってこれないくらい長引く予定だったなんてことはありえない。


俺の説明に2人は納得した。


「だんだん、お父さんに何が起こったのか知ってるのが誰かがはっきりして来たみたいね。」

「そうだな。」

「でも、仮にそうだとしても、そんなのどうしようもないよ。お母さんも会社に行って話を聞いたんだけど、みんな何も知らないって。警察も相手にしてくれないし。」

「もしお父さんの行方不明を誰かが引き起こしたというのなら、十分に犯罪になると思うけど、その証拠を揃えるのが先ね。」

「そうなるね。でもどうしたらいいんだろう。やっぱり乗り込むしかないのかな。」

「そんなことしても警察を呼ばれるだけよ。でもどうやったら。私たちじゃ部長に会うことすら難しいし。でも他の方法と言っても…」


ならやっぱり部長に喋ってもらうしかない。

ここまで絞れたらそろそろか?


俺は考え込む小山内に目くばせして合図を送った。


「…」


合図を送った。


「…」


小山内、考え込むのもいいが、いいからこっち見ろ。

だが小山内は集中しすぎて、咳払いしてみても、ジュース飲んでみても気付かない。

仕方ない。


「きゃっ!?」


え?

かわいい声を上げてビクンとなったのは春田さんの方だった。


「あんた何やったのよ!!」


間髪を入れず小山内が怒鳴る。

なんで小山内が怒るんだ?

いやなんで俺が原因だと?


まあ正解。

でも足でちょっと突っついただけだぜ。


「いや、お前が反応無くなったから。気づいてもらおうとちょっと足で突っついただけだって。」


さらに小山内はおっそろしい顏に。


「あんたサイテー。」


なんでそこまで言う?

お前も俺にやったじゃないかよ。

と…はとても口にできないな。


「小山内さん、大丈夫だから。突然でびっくりしただけ。」


小山内には感じなかった罪悪感が急に湧いてきた。


「ごめん春田さん。びっくりさせて。」

「いいよ。気にしなくて。でも私があんな声出したのはみんなには秘密だからね。」


秘密か。ボーイッシュな春田さんがあんなかわいい声を出したってみんなが知ったら、ギャップ萌えでもっと人気が出ると思うんだけどな。


と思って小山内を見たらおっそろしい顔2.0に進化してたから、慌てて首を激しく縦に振った。振らせていただきましたっ!


「で、何よ。」


ぶっすーとした顔で小山内が俺に聞いてきた。


「だから、秘密にするって。」

「そっちじゃなくて。あんたが私にセクハラしてまで言いたかったことって何か聞いてるのよ。」

「セ、セクハラぁ?!」

「それはもういいからさっさと言う。」


ああ、そっちか。高一には刺激が強すぎる展開のせいで頭から滅却されてたぞ。


俺は、春田さんをチラッと見て、小山内に視線を戻した。


「小山内、ちょっと2人だけでいいか?」

「あんた、まだ懲りないの?」

「それはもういいから。」


そう言って俺は、小山内をじっと見つめた。


「?…あっ。」


ようやく通じたか。

なんでこんなラブコメみたいな遠回りな展開しないと話が通じないんだよ。


「ごめんなさい春田さん、ちょっとだけいいかな。」

「うん。」

「ジュースか何か飲んでてくれ。」


ドリンクバー勿体ないし。


春田さんをテーブルに残して俺たちはお手洗いの方に移動した。

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