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 第37話 インターミッション (3)

なんか、異世界転生ものの転生シーンにでも出てきそうな明るい光に満ちてるな、なんて暢気なことを考えたら、いきなり意識が戻ってきた。


残念ながら、俺は転生したわけでは無いらしい。

目を開けたらあいもかわらず、薄暗い林の中だ。


小山内は?まだぼんやりしてる目で周囲を見ると、


「俺君…」


小山内の声だ。

声のした方を見ると、小山内が枯れ葉の中に半分埋まりながら身を起こそうと手足をモゾモゾ動かしてしているところだった。

ガサガサガサという大きな音が近づいてきて、


「小山内君、俺君、大丈夫かっ?」


これは鳥羽先輩の声だ。その方向を見ると、一直線に俺たちの方に焦った様子で近づいてくる鳥羽先輩達が見えた。


そうだ小山内!


「小山内!無事か!」

「ちょっと手首が痛いだけよ。それより俺君は?」


小山内が、枯れ葉の中からようやく体を起こしながら俺に聞いてきた。

俺は、何かにぶつけた背中が痛いのと…やっぱりそれだけだった。


あれ?

なんか意外になんともない?なんとなく恥ずかしい感じになってるんじゃないか?これ。さっきの感じからすると、意識を失ったのもほんの一瞬ぽいし。


ようやく、鳥羽先輩達が俺たちの所にたどり着き、腕をとって引っ張り起こしてくれた。枯葉やら小さな枯れ枝が至る所からバラバラ落ちる。


「君たち大丈夫か?」

「え、ええ。」

「はい。背中がちょっと痛いくらいです。」

「小山内君は立てますか?」

「ちょっとだけ待ってください。なんか、足に力が入らなくて。」

「えっ。」

「痛いとかじゃ無いので大丈夫です。びっくりして腰が抜けちゃったみたいで。」

「あ、ああそうか。そうだよね。」


なんか、俺たち無事っぽい。

何が起こったんだ?


俺たちから視線を外してどこかを見上げた鳥羽先輩の視線を追うと、俺のだいたい真上3メートルくらいの高さの所にある、がけの縁みたいになってるところの土が、妙に他の所から浮き上がって見える。鳥羽先輩が篠田先輩と言葉を交わした。


「落ちたのはあそこからだね。」

「そうみたいですね。」


そう言いながら俺たちを振り返った鳥羽先輩達は、


「長年底に溜まった枯れ葉がクッションになったんだね。とにかく無事で良かった。私達も油断してしまった。すまない。」


と言って頭を下げた。

これどう反応すりゃいいかわからなかったんで、とりあえず、「はい」とだけ答えた。


それよりも俺は、まだ鈍い痛みが残ってるところをさすろうと手を背中に当てたら、自分のリュックに当たった。痛みの原因はこいつか。


しかし、なんか大袈裟なことを口走ってしまった気がする。

くぁあああ恥ずかしい。

俺の方は心の傷の方がでかいぞ。小山内もしっかりあの言葉を聞いてただろうし、空回りになった俺の飛び込みと、そのあとの超能力、あれ、無かったことになんないかな?おれはラノベの主人公にはなれない星の下に産まれたんだきっと。


俺が無駄なことを考えながら無意識に差し出した手を掴んだ小山内も、「よっ。」とかけ声を掛けながら立ち上がった。

みんな太もも近くまで枯れ葉に埋まってる。ロープって、この枯れ葉に埋まってしまった時用だったか。ようやく俺はそのことを理解した。


「どうする、もう今日は打ち切った方が良いかい?」

「私は大丈夫ですが、私をかばってくれた俺君の方が。」

「いや、大丈夫です。背中はリュックをぶつけただけみたいですので。でも天然のクッション、素晴らしいなぁ。」


俺の言葉の最後のあたりの口調、察してくれ。まだ俺は高1になりたてなんだ。そんなうまく小っ恥ずかしさを誤魔化せるほど人間出来てねーよ。

小山内は顔を恥ずかしさで赤らめた俺をじっと見て、いろんな感情が混じってそうな複雑な調子の声で一言ぼそっと言った。


「助けてくれて、ありがとう。」


これ、どう解釈したら良いんだろうな。


鳥羽先輩はそんな俺たちを見て、「どうしようか。今日は中止して戻ろうか。」と呟きながら篠田先輩と相談を始めた。

びっくりはしたけど、痛みとか全然大丈夫なんだけどな。


何故かその時、俺の脳裏に、今日ずっと楽しそうにしていた小山内の顔が浮かんだ。まだ小山内と再会してちょっとしか経ってないけど、小山内がこんなに楽しそうにしてたのは初めてな気がする。

だから、小山内が大丈夫なら続けさせてやりたい。

俺はそれをそのまま口にした。


もちろん最後の一文のとこだけな。


俺の言葉を聞いて

「ふーん。」

だか

「へぇー。」

だかの顔になった小山内は、俺を一瞥して、特に何の感情もこもってないような声で


「俺君が大丈夫なら、私も続けたいです。」


と言った。

あれ?なんか俺の予想よりあんまり喜んでない?やっぱり何処か怪我でもあるのか?

その心配が俺の顔に出たのか、小山内は少し慌てたように付け足した。


「痛みとか全くないですし、先輩達の説明や先輩達とのサイクリングが楽しかったので。」


そこでなんであえて俺を外すかな〜

さすがにちょっと傷つくぞ。

まあ、歴研との交流なので、中世史研究会の部長としてはそう言うべきなのかもしれないけどな。


とにかく、小山内のその一言のお陰で(?)続行が決まった。


その後、スマホのGPSなんかを使いながら、今度は慎重に、俺たちが落ちた窪地の位置やらサイズやらを計測して地形図に書き入れていった。地道な作業だけど、なんかいかにも調査してるっぽいところが、俺のガキの部分をくすぐったぜ。


地形図に書き入れたものをみると、やっぱり、あの窪地は真っ直ぐに続いていて、林の中央部にある、いかにも昔何か建っていました感のある平坦になっている部分に沿っていることが判明した。


その後、俺たちは、鳥羽先輩の指導の下、中央の平坦な部分もサイズを計測した後、自転車の所に戻って、持ってきた弁当を食べながら意見交換。

といっても、俺には意見を言えるほどの見識なんざ最初っから持ってない。

感じたままに、あの坂道を登る感じとかいかにもこのあたりを支配していた人が住んでいた感じがします、とか、あの窪地、あの位置や形状からして人工なのは間違いなさそうだし、家の庭に作った池にしては風情が無いのでやっぱり空堀でしょうとか、そんな感じのを並べただけ。


ちなみに、「風情が無い」、のところで小山内が飲んでたお茶を盛大に吹いて、笑かすなと散々文句を言われた。なぜだ?

それとな、小山内。

俺に抗議するのは良いけど、鳥羽先輩達がニヤニヤしながら俺たちを見てたのにおまえ気付いてたか?


その後、少し自転車を走らせて、あの林の場所がこの周辺からどう見えるのか、を確認して、その日の全予定が終了した。

駅に戻ったときにはもう夕方。


疲れた。

主に精神面で。

電車に乗る前にも、あのシーンを思い出して、「くううう。」といいながら身もだえしてしまった。



まあこんな感じで、俺たちの部の最初の表と裏の活動が始まったんだ。

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