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 第36話 インターミッション (2)

鳥羽先輩から、今から藪の中に入っていくので、俺が捲り上げていた袖を戻すようにと指示があった。

持ってくるようにといわれていた軍手も、指示は無いけどリュックから取り出して装着。

小山内もさすがにちょっと緊張した様子で軍手をつけた。


かすかな道跡と言えなくもない、藪が他の場所より少しだけ薄くなっているところに立った鳥羽先輩は、一度腕時計を確認して俺たちの方を見た。


「じゃ、こっちに来てください。ここから入っていきます。斉藤先生を通じてこの土地の持ち主の方に立ち入りの許可は取ってあるけど、あくまで立ち入りの許可だけなので、何か見つけても勝手に持ち出さないようにね。

それと、自己責任だから、充分に足元や木の枝などに気をつけて歩いてください。」

「はーい!」


俺と小山内、それに篠田先輩も口を揃えて返事した。

なんだか小学生の時の秘密基地探検みたいな感じですっげー楽しい。

…悪いか?高校生になっても俺は男の子なんだ。

小山内も楽しそうだから、尚更いいじゃないか。


がさごそと、藪をかき分けて入っていくと、進路が少し上り坂になっている。そうか、周囲の田んぼよりも高い位置にあるから、ここは水を引けずに田んぼになってないのか。


先を行く鳥羽先輩と篠田先輩は、なにか話しながら、辺りを見回したり、さっきの地図を拡大コピーしたものに書き入れたりしている。


このへんは昨日は雨が降ってないはずだが、藪が濃いせいか、それとも川が近いせいかわからないが、地面は湿っていて、坂になってる所だと滑ったり崩れたりしそうになる。

俺の前を行く小山内も、危なっかしい感じはするものの、なんとかバランスを取りながら歩いていて、俺の前でリュックがゆらゆらしている。

「滑らないように気をつけて。」と声を掛けようかとも思ったが、かえってバランスを崩したら危険なので止めた。

その代わり、といっちゃ何だが、小山内が足を滑らしたら受け止めてやんないとな。

その前に俺も滑るかもだが。


道から藪におよそ2、30メートルくらい入ったあたりで鳥羽先輩達の先行組が足を止めた。

このあたり、いつの間にか木がたくさん生えてるゾーンになって、藪がなくなている。

気付くと地面も平坦だ。


へっぴり腰で追いついた俺たちを待ってた鳥羽先輩が話し始めた。


「このすぐ先に大きな窪地がある。うちの部の先輩達は空堀ではないかと考えているんだけど、君たちの意見も聞かせて欲しい。空堀は、わかるよね?」


意見?俺が?

と思ったが、小山内は、元気よく、「はい!」、と答えた。


「じゃ行くけど、窪地の中に降りていくので、足を滑らさないように十分注意してください。私たちが先に降りるから、そのやり方も見ててね。」


「おー!」


これ、俺が言ったんじゃないからな。

わくわくを隠せない、といった表情で小山内も先輩の後をついていく。


すると、ものの10メートルほどで、その「窪地」が現れた。

生えてる木なんかが邪魔になってよくわからないが、確かに、幅数メートルの窪地が数十メートルはほぼ一直線に延びるみたいだ。深さも人の背丈よりずいぶん深そうだし。

こんなの、人の手が入ってるんじゃなかったら自然には出来ないだろう。


「まず、私たちが降りるから、君たちはそこで見ていてください。ここに、ロープを置いていきますので、万が一何かあったらよろしく。」


万が一って何だよ。足軽の亡霊が現れて石でも落としてきたり?


城跡かもと聞いてたから、ちょっと不気味な想像をしたけど、よく考えたら、もし堀だという説が正しいなら、上から見てるだけでは這い上がれないような仕掛けになっているのかも知れない。


なんて心配したけど、先輩達は、降りやすい場所を探して身軽に降りていく。

むしろ窪地の縁に両手をついてその様子を覗き込んでる小山内の方が危なっかしい。

そういえば、鳥羽先輩はここが戦国時代より前にこのあたりを支配していた遠西氏だっけ?その城跡か居館跡って言ってから、この窪地も相当古いもののはずだ。なら。


「小山内、一歩下がった方がいい。もし鳥羽先輩のいうとおり戦国時代よりも前の堀なら、とても古い時代のもののはずだ。縁が脆くなってるかもしれない。」


俺のその声に、小山内が


「え?」


と反応したのが早かったか、


崩れるのが早かったか。


小山内が右手を突っ張っていた地面がいきなり消えて、それと同時に小山内の右肩ががくんと落ちる。即座に左手の方一気に崩れが広がり、左手を置いていたところも崩れた。


「はっあっ。」


とっさのことに悲鳴すら挙げられない小山内。土が崩れた音には反応したものの、足場が悪くて身動きの取れない先輩達の姿が小山内の体越しに見えた。もう底まで降りてる。底は予想よりずっと深い!


俺は小山内の上体がスローモーションのように落ちていくのを目にした。

小山内の目が大きく見開いて俺を見た。

バランスを崩した上体に背中のリュックがさらにのしかかり、さらに小山内を落とし込んでいく。


小山内に駆け寄る、俺の3歩先で小山内の足が浮き上がった。

もう一歩踏み込んだところで小山内の体はさらに落ち込み、俺は引き戻すのを諦めた。

更に一歩。


そして、俺は精一杯腕を伸ばし飛んだ。


飛び込んだ俺の目の前には小山内の背中。

リュックに手が届く。

ぐっと引き寄せ、小山内の頭をとにかくしっかり抱え込んで、


妙に冷静な俺の頭が教えてくれた。言え、と。


「小山内は絶対に怪我をするっ」


それ以上を言う時間は、無かった。背中に鋭い痛みが走って、

俺は後悔した。

「小山内は絶対死ぬ。」を言う時間が無かったことを。

その意識も、次の瞬間頭が大きく揺すぶられて、途切れた。

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